コーネリア×ルルーシュ×C.C.

ルルーシュは朝が弱い。平日寝坊は当たり前、休日に至っては誰からが起こさない限り、夕方まで寝てるという。
彼は布団の中で穏やかな寝息を立てて、もぞもぞと深い眠りについていた。

「おい、ルルーシュ」

合鍵でドアを開け、ベッドまで忍び寄ったシーツーはゆさゆさと揺する。

「……」

だが、ルルーシュは相変わらずの様子で眠ったまま。ピザ食べに行く約束したのに……シーツーは拗ねながらも、あまりに無防備で新鮮なルルーシュの寝顔を前に、頬が緩みっぱなしだった。

「しかし……これはこれで……」

部屋の静けさに、ルルーシュの寝息が揺れる木の葉のように反響していく。だが、何時までも眺めているわけにはいかない。何時あの雌狐が邪魔に入るかわからないのだ。

「眠りの森の、王子か…」

そう、これは御伽噺だ。なら、ルルーシュは私の口付けで起きる。完璧だな。
そのまま身を乗り出したシーツーの後頭部に、鉄の塊が突きつけられた。

「其処までだ、泥棒猫」

威圧感とともに、冷たい声が流れる。
何時の間に……っ!シーツーは自分の愚かさに後悔していた。

「……何しにきたんだ?雌狐の年増が」

「それはこっちの台詞だ。貴様、今何をしようとしていた?」

互いに動じることなく、牽制しあう。ルルーシュはまだ静かに眠っていた。

「人聞きが悪いな。私はただ、この阿呆を起こそうとしていたところだ」

「…それはそれは。だが、余計なお節介というモノ。この子を起こすのは、私のキスと決まっていてな」

冷えた下衆な哂いを浮かべたのがシーツーにはわかった。コーネリア。この保護者気取りは事あるごとに私とルルーシュの仲を引き裂こうとする。

「…何だ?貴様、まるでルルーシュが自分のものだと言いたげじゃないか」

「……ふん、流石に泥棒猫は知能が低いと見える。言いたげではない、そう言ってるのだ」

互いに引いて押して。皇帝も逃げ出す程の、竜虎一触即発の領域だった。ルルーシュはまだ寝ていたが。

「今日、ルルーシュは私とピザを食べに行く約束をしたんだ―」

「残念だな。今日は来週からのテスト勉強だ。私とマンツーマンでな」

シーツーの言葉をコーネリアが遮る。

「………百歩譲って、貴様にルルーシュの一日はやろう。だが、朝の口付けは私が戴く」

「…ちょっと待て、泥棒猫っ!!」

コーネリアがシーツーの襟をつかんで、床に引き倒した。続いて、ベッドに乗り込んだコーネリアを、すかさずシーツーが引きずり倒す。

「……この愚猫が。一回本気で躾けないと判らないらしいな」

「……ふん。年増は部屋に帰って皺の数でも数えてろ」

一進一退を繰り返していた、互いの均衡は崩れた。交わる拳と叫び。

「ふぁ……ぁ。まだ眠いよ」

「まだ寝たりないの?もう…じゃあ、天気も良いし、庭でお昼寝でもしませんか?」

二人の喧騒を他所に、ルルーシュは夕方まで、ユーフェミアと仲良く昼寝をしてました。

―――――――――――

C.C.×ルルーシュ

王の力は王を孤独にする。

確かに強い彼の想いは氷の様に簡単に溶けてしまった。

確かに強い彼の心は枝の様に簡単に折れてしまった。

確かに強い彼の意思はガラスの様に簡単に割れてしまった。

ああ…そんなことは解かっていた。

心には失望と後悔。それと喜び。

確かに王の力は彼を孤独にした。

彼の世界には彼が佇み。

彼の理には彼が残され。

彼の中には彼しか居ない。

「でも、私が傍に居てあげる……」

だから、彼は独りではない。

私が、ずっとお前の傍に居る……

そうして、誰も居なくなった。

―――――――――――

C.C.×ルルーシュ

「動くな」

緑髪がさらりと肩から胸にかかった。うなじの所が少し冷たい。

「………」

今、C.C.が俺を後ろから抱きしめている。
俺は言われたとおり、動かずにC.C.に体を預けていた。彼女が嗚咽を漏らすたびに、首筋を流れる涙の数が増えていく。

「……お前の事を考えていた」

C.C.の声は僅かに擦れていた。俺の体にかかる力が少しずつ強くなっていく。

「……そうか」

彼女の手を自分の掌で包む。彼女は不器用ながらに、握り返してきた。

「……私を独りにしないでくれ」

空気に潰される様な呟き。その言葉が共犯者、または別の感情からくる言葉か。
ルルーシュは深く瞳を閉じ、しばらくの間の後、僅かに首を縦に振った。

――――――――――

コーネリア×ルルーシュ

「……ルルーシュ、ルルーシュ?」

何度ノックしても、呼びかけても反応は無かった。折角良い茶葉が手に入ったというのに……コーネリアは不満そうにその場を離れようとした。

「………」

だが、女官は部屋に戻っていると言っていた……意を決してドアノブに手をかける。鍵は開いていた。

「………」

「ルルーシュ…?」

ルルーシュはベッドで寝ていた。コーネリアはそっと近づいて、その寝顔を覗き込む。

「………」

ルルーシュは寝息一つ立てずに、安らかな寝顔で眠っていた。普段の子憎たらしい表情とは一転、そんな普段のギャップにコーネリアは苦笑した。

「…ルルーシュ」

名前を呼びながら、ルルーシュの髪の毛をそっと指に巻きつける。

「……好きだぞ」

何時までも起きないルルーシュを眺めながら、耳元で一言だけ囁く。そのままルルーシュの唇に……

「……ん?」

「………きゃぁっ!!」

急にルルーシュの瞳が開いた。コーネリアは驚いて、悲鳴を上げベッドから飛び退いてしまった。

「あ…姉上?」

「お、おはよう…済ま、ない。何度ノックしても返事が無いものだから……」

「あぁ…別に構わないですよ。ん?どうしたんですか?」

「え?あ、ああ…いや、良い茶葉が手に入ったからな。一緒に、お茶でもどうかと誘いに来たんだ」

未だ、寝ぼけ眼のルルーシュと、何処か得心したように頷くコーネリア。

「あ…そうですか。直ぐに行くので、待っててください」

「あ、ああ。では、先に行ってるぞ」

そのままぎこちなく部屋を出て行くコーネリア。何か引っかかって腑に落ちないルルーシュ。

「……自惚れか」

自分が彼女の事を好きでも、彼女はそうだとは限らない。
でも、好きだと。そう言われた様な気がしたんだけど……ルルーシュは苦笑して首を振ると、部屋を後にした。

――――――――――

ルルーシュ×コーネリア

「ありがとうございました♪」

凛とした声が店内に響く。学園から少し離れた所にあるファーストフード店。昼間のピークも過ぎ、ようやく落ち着いた店内で、コーネリアはひっそりと溜息をついた。
ルルーシュの勧めで始めてみたバイト。最初は苦労や苦難の連続だったが、一週間、一ヶ月過ぎ、大抵の仕事も覚え始めてきた。今では仕事が逆に楽しくなってきたぐらいだった。

「……こんにちは」

そんな中、一人の男子生徒が客として来店してきた。それがルルーシュと理解したコーネリアは、一歩、二歩と後ろに下がった。
ルルーシュは微笑を浮かべたまま、コーネリアを舐め回すように眺める。シンプルながら、黒と白を基調としたハッキリとした色合いの制服は、コーネリアにとっても良く似合っていた。

「……素晴らしい」

「な…何を言い出すんだ……ル、ルルーシュ……」

「いや、とても似合ってますよ。姉上」

「わ、私の事はどうでもいいっ!あ、いえ…失礼しました。ご、ご注文はお決まりですか?」

狼狽しながら、顔を真っ赤にしながら視線を逸らすコーネリアと、笑いを必死に堪えるルルーシュ。だが、何時までも姉の仕事を邪魔するわけには行かない。

「……ん、じゃあ、オレンジジュースとスマイル」

だが、断る。

「オレンジジュースと…スマイル……?」

コーネリアの表情が引き攣った。

「……ルルーシュっ」

涙を少し浮かべて、ルルーシュを見つめるコーネリア。後ろには、店員たちの奇異の視線を感じた。

「……こちらで、如何でしょうか?」

「…………ぁ」

数瞬の葛藤の後、コーネリアは笑顔を浮かべた。それは誰もが見惚れる様な、綺麗な笑顔だった。

「お疲れ様でしたー」

眼鏡が良く似合う店長に挨拶し、店を出る。

「お疲れ様です」

「……ルルーシュ」

外に出ると、ルルーシュが待っていた。あれからずっと待っていてくれたのだろうか。

「ごめん…怒ってる?」

「……仕事だからな」

確かに非常に恥ずかしかったが、悪い気分ではなかった。だけど……

「ルルーシュ」

「………ぁ、姉上!?」

コーネリアは、ルルーシュの頬に唇をそっと付けた。急な不意打ちに、今度はルルーシュが顔を真っ赤にして、あたふたと慌てている。

「…今のは、サービスだ。お持ち帰りの、な」

コーネリアは口元に手を当てて微笑んだ。
そう、仕返しぐらいしたって、罰は当たらないだろう。

―――――――――――

コーネリア×ルルーシュ

食事の準備が出来たらしい。ルルーシュはコーネリアの部屋に向かい、ドアをノックした。

「………?姉上?」

何回か叩いても返事が無い。そっと、ドアノブを回して中に入る。薄暗い部屋の中で、彼女は出かけた時の私服のまま、ベッドで眠っていた。

「……ん」

ドアから差し込む光に気が付いたのか、コーネリアは身を起こし、呆けたような視線をルルーシュに向けた。

「姉上?ご飯の準備が整ったみたいですよ」

「え…あぁ、そうか」

緩慢な動作で、身を起こす。それを確認したルルーシュは踵を返し、ドアノブに手を回した。

「……ルルーシュ」

「…ん?どうかしました?姉上」

振り向いて、コーネリアに向き合う。コーネリアは先ほどとは違った、真摯な眼差しを向けていた。

「……これからは、コーネリア。そう呼べ」

「…っ」

それは、自分の告白に対する、彼女の決意。ルルーシュは深く目を閉じ、その言葉を反芻させる。

「……コーネリア」

「…何だ?」

ルルーシュの呟きの様な声に、コーネリアはしっかりと頷いた。それを見て確信した、迷いは、後悔は無い。

「あ…早くしないとユフィに怒られるな。行こう…コーネリア」

「ああ、そうだな。ルルーシュ」

ルルーシュの掌を、優しく握り返すコーネリア。その表情は穏やかで、綺麗な微笑だった。

――――――――――

コーネリア×ルルーシュ

ここはコーネリアの自室。室内には、紙の上を鉛筆が走る音と、ノートのページをめくる音だけが響いていた。
今、この場所にいるのはコーネリアとルルーシュだけ。

「姉上」

「どうした?」

「ここ…なんて読むんですか」

ルルーシュの指し示したページを覗き込み、コーネリアは肩をすくめた。

「それは、リンゴと読むんだ」

「…ありがとうございます」

ルルーシュは頷いて、読書を再開した。
窓の外からは、秋の穏やかな日差しが差し込んでいる。

「姉上…」

「どうした?」

「すいません、ここは?」

ルルーシュの指し示したページを覗き込み、コーネリアは肩をすくめた。

「それは、レモンだな」

「ありがとうございます」

ルルーシュは頷いて、読書を再開した。
窓からは、少し涼しい風が流れ込む。

「姉上…」

「ルルーシュ?」

「……いえ、何でもありません」

言い淀むと、黙々と読書を再開する。その何か言いたげな無言の横顔を見て、コーネリアはくすっと笑うと腕を伸ばした。

「しょうがないな……構って欲しかったのか?」

子供のように頭を撫でられながら、ルルーシュは顔を赤くして決まり悪そうにそっぽを向いていた。

――――――――――

コーネリア×ルルーシュ

第二皇女の部屋がある。
シンプルにまとめられながらも、細かいところに凝ったつくりが見られるこの部屋は、彼女のこだわりだった。

「ん…ぅ……ルルーシュ」

その部屋の主、コーネリアは、思いっきり抱きしめていた。そして何度も激しく唇をつける。
コーネリアの顔は真っ赤に染まっていて、まるで蕩けた様な笑顔を浮かべている。普段の彼女とは似ても似つかない、何とも言えない奇妙さと、可愛らしさがあった。

「あ…ん、ルルゥ……」

そして、行為はさらにエスカレートしていく。

「……………」

ルルーシュの心の中は、6割の萌えと4割の恥ずかしさ、そして若干の失望と興奮が拡がっていた。
見てしまった。コーネリアの痴態を。まさか、自分のぬいぐるみであんな事をしているなんて。しかも、ほぼ等身大。
普段はあまりというか、全く素振りを見せない彼女。だが、その我慢があんな形で発散されてるとは…

「……はぁ」

「ほう?どうした?ため息なんぞついて」

「…うおっ!?」

ため息をついた後、後ろから急にシーツーが現れた。爽やかな笑顔を浮かべた彼女は楽しそうにピザをかじっていた。

「い、何時の間に…」

「ん…お前が年増の部屋からとぼとぼと逃げ帰ってきたところからだ」

「…様は、一部始終か」

よりによって最悪な相手に出会ってしまった。

「知らなかったのか?泣く子も黙るコーネリア嬢が、夜な夜な愛する弟君のお人形で、自分を慰めてる、と」

「……なんだよ、それ」

「…ふん、そう怒るな。私とて発信源は知らない。だが、なあ?普段の我慢、もどかしさをお人形で発散など、あの魔女も女の子、と言うわけか」

「…………っ」

ルルーシュはただ赤面して視線を泳がすことしか出来なかった。シーツーは占有しているベッドから飛び降り、満面の笑顔で部屋から出て行った。

「ルルーシュ!」

ああ、遂に一番今会いたくない相手が部屋に来てしまった。
部屋に入ってきたコーネリアは手に袋をぶら下げている。

「良いお菓子を戴いたんだ、良ければ一緒にどうだ?」

「あ…いえ」

恥ずかしさと気まずさで彼女の顔を見れない。そんなルルーシュの様子を不審に思ったのか、コーネリアはルルーシュの様子を伺おうとする。

「…ん?顔が赤いぞ。風邪か?」

「確かに一種の病気かもな。何せ、恋慕を寄せる姉が、自分を象った人形でー」

何と言おうか葛藤していたルルーシュの元に、最高最悪の援護射撃が飛んできた。部屋の出口ではシーツーがにやけた笑顔を浮かべていた。

「え………」

「………っ!」

一気に真っ赤になるルルーシュと、徐々に赤くなってくるコーネリア。

「あ、あ、あねう……」

「ち、違うんだルルーシュ!その、確かに、あ、いや……」

何やら早口で捲し立てた後、俯いて黙り込んでしまうコーネリア。それを見つめていたルルーシュの頬は緩み、自然と笑みが浮かぶ。そのまま、コーネリアの頭をやさしく撫でる。

「ああ…熱い熱い」

シーツーはつまらなそうに服の襟袖で首元を仰いでいた。

――――――――――

ルルーシュ×カレン

「あれ?もう帰るの?」

背中に投げられた声にルルーシュは振り向く。

「ああ」

うなずくと、カレンは不機嫌そうに足をじたばたさせた。まるで尻尾を振る犬のように。

「…もう、夜も遅いんだし、止まっていったら?」

それは魅力的な提案だった。だが、流石に何度も外泊というのは拙い。ただでさえ、うちの姉さんは過保護すぎるのだ。
しかも最近、シーツーという居候と激しい小競り合いを起こしてるようだ。まったく原因は判らないけど、板ばさみにされるこっちのみにもなって欲しい。

「…悪い、今度埋め合わせするよ」

「……むぅ」

頬を膨らませて抗議の意を示すカレン。そんな様子に苦笑しつつも、俺はドアノブに手をかける。

「…明日、遊びに行こう」

「本当!?」

さっきまでとは一転。咲いた花のような笑顔を浮かべる。現金な奴だ。

帰り道。ふと、公園から桜の花びらが飛んできた。ああ、もうそんな季節なんだな。と、感慨にふける。暫く、そうして、桜を眺めていた。

「……ルルーシュ?」

ふと、自分を呼ぶ声がした。振り向くと、そこにはカレンが立っていた。

「…カレン?」

「何してるの?」

「桜、見てたんだ」

カレンは俺の隣に立って桜の樹を見上げる。花びらが、カレンの髪の毛に止まる。

「そういえば、どうしたんだ?」

「……おねーさんから電話来ましたよ」

呆れた様子で、カレンは首を振った。それでわざわざ探しに来たわけか…俺も苦笑するしかない。

「……ねぇ、ルルーシュ」

「何だ?」

「桜って、直ぐ散っちゃうんだよね」

「…まあ、な。それがどうかしたのか?」

不意に、しおらしい表情を見せるカレン。それが何だか切なくて。

「……帰ろうか」

駄目だと思っても、ついつい付き合ってしまう。ルルーシュは踵を返し、元の道を戻る。
その後ろをついていく少女の表情は、何と言えばいいだろうか、それを的確な言葉で表現するのならば、まさに…計算通り、だった。

inserted by FC2 system