如何なる物語も、何時か終わりに辿り着く。


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目の前に、大きな満月が見える。
あの満月は何を望み、何を求めているのか。
深遠の闇に薄い光を放ちながら漂う満月。
それはまるで子供を見守る母のように。

未練はある、後悔もある。
だけど、これは俺しか出来ないこと。
人々が見上げる空に、眩しく巨大な満月が浮かんでいる。
それは、見る者全てを魅了してしまいそうなほど、綺麗だった。


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「おぉぉぉぉっ!!」

川のように、風のように流れる連撃。さらに、具現化した死の使いが繰り出す震えるような無数の剣撃。叩き込む剣戟は五月雨の如く。繰り出される剣撃はまさに無限。

「来い…メサイア!!」

そして、使役する最強のペルソナが最強の一撃を繰り出した。放たれた白銀は闇を抉り、飲み込み、全てを消し去る閃光となって爆発した。

「……ちっ」

だが、目の前に存在するモノは変わらない姿で其処に鎮座していた。攻撃は確かに届いてる。確実にダメージを与えている。しかし、勝てる気が全くしない。不安、それがじわじわと自分の身体を侵食していく。

「くそ、俺はこんなに弱かったか…?」

不安を誤魔化すかの様にさらに攻撃を加える。だが、加えれば加えるほど、胸の空洞は広がるだけだった。

「……っ!?」

ふと、意識が消えた。何の唐突も無く、それが必然化のように。身体が震えた。ざあざあとノイズのような音が、何処からか聞こえていた。


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「…僕を殺してくれ」

お願いだからと、少年は言った。それは望月綾時の精一杯の強がりであり、優しさだったのだろう。それはわかっていた。もし、あそこで全てを捨てる選択をしたら、この一ヶ月の苦悩、苦痛、不安、葛藤も、全て泡に消え、嘘になっていただろう。絶対な死を感じながらも、それに抗おうとする日々も忘れられた。それは一つの救いだったかもしれない。
だが、俺は首を横に振った。誰の意見にも、考えにも左右されず、必死に辿り着いた結論だった。
綾時の言うことなら絶対だっただろう。何もかも全てを失っても、それでも安らかに滅びのときを迎えられたに違いない。だが、俺は断った。自分達の力で、最後まで抗いきると誓った。

決戦前夜。寝ずにずっと考えていた。
正直、無理だと思っていた。自信なんて無かった。死が怖い、恐ろしい。逃げたかった。だけど、その選択は選べなかった。認められなかった。理屈じゃない。
わからない。そう、わからない。今までそんな日々。明日の事はおろか、今日の事さえ分からず。未来に不安を持って生きている。理解できたことなんて、それこそ砂粒ぐらいのことだけだった。
こんな数奇な運命に生まれついてきたのか、そして歩んできたのか。全く分からない。
それでも、生きている。逃げずに、立ち向かい、今日を進み、そして明日を迎える。例え明日に苦難があったとしても、それだけかは分からない。それだけとは限らない。今は、それだけわかればいい。


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視界全てが赤に染まっていた。
其処には自分独りしか存在せず。
血の匂いと、死の臭いに震えていた。

多分、あの時の事件が運命との最初の出会い。
それにも意味はきっとあったのだろう。
だけど、終わってしまったことだ。

そういえば、あの頃の満月も、とても綺麗だったような気がした。


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「っ!?」

胸を焦がすような刺激に意識は再び現に呼び出された。
俺は何をしてた?何をされた?
それを感じる間もなく、再び意識が消えた。

「………ぁ」

頭の中で弾けた光が、寸前の所で意識を押しとどめた。そして理解する。これがヤツの攻撃だということを。だけど、一体何が俺を……

「……や!」

何処からか、声が聞こえる。

「…も、や!!」

美鶴の声が、胸の奥から聞こえてくる。

「……智哉!!」

最初は曖昧に、だがそれは次第にはっきりと。胸の奥から、聞こえてくる。

「…智哉君!」

美鶴だけじゃない。仲間達の声が聞こえる。そして、たくさんの知り合いの声が響いてくる。


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人々の想い。それは光として、やがて流星になり、地を駆け抜け、空を舞い、満月に吸い込まれていく。雲を払い、闇を照らしながら。
流星は、俺の中で弾け、力となってこの身体を焦がし、魂を燃やす。
そして夜を照らし、闇を退ける朝への光になる。希望という名の光、奇跡という名の力。
今まで何気なく過ごしてきた日々が、多くの人の心と俺の力を結んでいく。深い、とても深い絆。例え、何処にいても繋がっている。何モノも決して縛れない。決して断ち切れない。その絆は無限に広がり、夢幻の力として、この空間を支配していく。


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最初は自堕落に過ごしていた。
何もかもが面倒臭く、興味の無いことだった。
だけど、ここで過ごしてるうちに、何と無く。
そう思うのが、情けなくなってきた。

今はただ、あいつらの日常を守ってやりたい。
もう、会えないけど、此処でずっと見ているよ。
そうしたら、何時か出会えるような気がするから。

 

 

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