「…今年は閏年か」

冬も終わりに近づく頃。春が近くなったとはいえ、この季節の空気はまだ冷たい。天気は良く日差しも見えてはいるが、朝霧に遮られ若干薄暗い。

「…ぁ?」

ベッドの上でC.C.が短く呻いた。先程起きたばかりだからか、何処か呆けていて、その視線は虚空を漂っているかのようだった。

「……閏年だ。お前だってそれぐらい知っているだろう?」

「ん、それぐらい、知っている。お前は、私を何だと…ふぁ…ぁ」

大きく欠伸をしながら、ふらふらとクローゼットを漁り始めるC.C.。

「何をしてるんだ?」

「何…って、着替えに決まってるだろう」

ルルーシュの問いに、C.C.は軽く手を振ってアピールする。

「……何の為に」

「…出かける為だ――」

不機嫌そうに尋ねるルルーシュと、眠たそうに答えるC.C.。そこで、ふとC.C.は言葉を切ってルルーシュの方を向いた。怪訝に思ったのか、不思議そうにルルーシュの目蓋が一度、二度と瞬いた。

「…?どうした、C.C.」

「ルルーシュ、一緒に来るか?」

そんなルルーシュの視線を見据えたまま、C.C.はそう言ったのだった。

――――――――――

強いて言うなら、棚から牡丹餅。振ってきたような一日なのだから、羽目を外すのも悪く無いだろう?
黒の騎士団も今日は休みだし。と、C.C.は言った。
日差しを遮る朝影の中、ゆっくりと租界の中を歩いていく。二人は手を繋ぎながら。

「……C.C.」

「黙れ、ルルーシュ」

そう言ってC.C.は力強くルルーシュの手を握った。

「着いたぞ」

そう言って、たどり着いたのは一軒のブティック。そこにC.C.は入っていく。ルルーシュも渋々ながら、入っていった。

「……おい」

ルルーシュの問いを無視して、次々に物色しては、その荷物を増やしていく。何度問いかけても答えず、ついには試着室に篭ってしまった。

「ルルーシュ、これは…どうだ?」

暫くして、試着室から出てきたC.C.は茶色いタートルネックのセーターと、白いドレッシーパンツを穿いていた。何時もと違う、違いすぎるその風貌にルルーシュ言葉を失い、ただ見惚れて立ち尽くすだけだった。

「…?ルルーシュ?」

「…っ。ぁあ。良いと、思う」

ぼんやりと、息を吐くように言葉が吐き出された。それは、紛れも無い本音。

「そうか」

満面の笑み。屈託の無い笑顔を浮かべ、そのままレジに服を持っていく。その、滅多に見せない笑みが、ルルーシュを惹きつけて離さない。

――――――――――

そういえば、今日は平日だったな。今更になってルルーシュは思い出していた。と言っても別に後悔といったそういう気持ちは無いのだが。それからも、ルルーシュはC.C.に引っ張られる形で租界を巡っていく。横目に見るC.C.は何処か跳ねていて、機嫌良さそうに歩いていく。そんな彼女の様子を見ながら歩いていると、自分も楽しくなっていくのをルルーシュは感じていた。

「……C.C.の服の趣味、か」

「ん?何か言ったか?」

心の中で思っていたつもりが、思わず口に出ていたらしい。C.C.の問いに、苦笑しながら答える。

「いや、結構時間かけて選んでたなと思っただけだ」

その返答に、若干C.C.の眼が鋭くなった。

「…私だって、お洒落をしたいとは思う」

その瞳にはなんだか怒りとも悲しみともつかない、不穏な色が揺れていた。

「…C.C.?」

「……私だって、女だ。お洒落ぐらいしたい、最低でも、好きな男の前では……」

次第に声は小さくなり、最後の方は聞こえなかった。一瞬だけ視線が交わる。その瞳は涙で揺れていて。頬は紅く染まっている。

「馬鹿だな」

腕を引っ張って、身体を向き合わせる。反らすC.C.の顔をこっちに向き合わせる。

「お前は、十分女らしい」

ルルーシュは言った後で後悔した。まるでフォローになって無いと。でも、それは紛れも無い本音。

「……0点だな。まるでフォローになってない」

呆れたようにC.C.が呟いた。でも、その表情ははにかんでいる。

「だが、嬉しいよ――」

C.C.は言いながら、ルルーシュの背中に手を回してきた。崩れる体制を何とか整えてその華奢な身体を支えた。
背中に回る手の感触、胸に当たる胸の感触は柔らかくて。支えた肩は細くて、漂ってくる香りは優しくて。思わず、強く抱きしめる。
視線を感じる。当然だ。此処は租界の道の真ん中。平日とはいえそれなりに人は疎らで、それなりの喧騒。それでもルルーシュは離さない。

だって、好きな女を、可愛い女を見せびらかしたいのは当然だろう?

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