雨の音で瞼を開けた。窓を叩く雨が規則正しいリズムを刻んでる。

「…ここは?」

辺りを見回してみるが、見覚えの無い部屋だった。薄暗く、部屋もそこまで広くも無く、一般家庭になら何処にでもありそうな部屋。部屋の隅にはテーブルと椅子。
窓から光は差し込んでこず、部屋の中は灰色に染まっている。

「……ぁ」

立ち上がろうとして、強烈な眩暈に襲われる。膝を突き、無様に頭から倒れる。手足が震えて、体制を整えることも出来ない。眩暈が頭痛呼び、頭痛は意識を拡散させ、朦朧とさせている。頭が痛い筈なのに、それすらも感じず、私は眠るように倒れた。雨の音だけがはっきりと聞こえてる。視界は未だ薄暗く、灰色だった。

「お姉様」

誰かの声がする。聞き覚えのある声。何も解からず再び眠りに付こうとした頭が何とか理解しようと働くが、全く無意味だった。

「……アレ?少し強すぎたかしら」

そう言って誰かは、私の手であるものを掴んで、何かをしていた。私は何も解からず、ただそれを見ている。

「…あ、…っ!!」

瞬間、今までぼやけていた頭が急に現実に引きずり戻される、視界は白く弾けて、頭が割れそうなほどに弾ける。

「あ…ぁぁぁっ!!!」

時間にしてほんの数秒か、だけど私にとっては長い時間に感じられた。
全身から汗が吹き出て、涙も止まらない。だけど、頭痛と朦朧としていた意識は何の違和感も無く、初めからそうであったかのように、普段通りに機能していた。

「…ユフィ」

目の前には妹のユフィ…?そう、そういえば、私はユフィと……?
思い出せない。横たわったまま、私はユフィを見上げる。ユフィはとても似つかない、見たことも無い醜悪な哂いを浮かべて私を見下していた。

「おはようございます、お姉様」

「あ…え、ぅ」

呂律が回らない。言いたい事が伝わらない。頭ははっきりしているのに、それが上手く神経に伝わらない。

「無理しなくて良いですよ。お姉様」

そう言って、ユフィは嬉しそうに部屋の隅にある椅子に座った。その表情はとても楽しそうで、残酷で。それが嫌で、でも、身体は動かなくて。手足が震えて、全く力が入らない。

「……ごめんなさい。お姉様。こんな所に連れて来てしまって」

そう、ユフィは哂った。哂いながら、私の全身を舐め回す様に観察している。

「……?あ、此処ですか?私がお願いして、特区の一角に家を建ててもらったんです」

ひとりでに語り始めるユフィ。私はただ、それを聞いてることしか出来ない。言いたい事があるのに、考えることがあるのに、意識は確かに覚醒しているのに、何も出来ない。

「あのね、お姉様。聞いてください。ルルーシュとナナリーが生きていたんですよ!!」

まるで、子供のように飛び跳ねるユフィ。私はそれをただ聞いているだけ。本当にただ、聞いているだけ。何か重大な事をユフィは話している。それなのに、私の頭はそれを理解できなくて。

「私考えたんです。どうにかルルとナナリーを連れ戻す方法を……で、考えたのはルルとナナリーを此処に呼ぶの。そうすれば、一緒に暮らせるでしょう?でも、どうすれば良いか私わからなくて…お姉様なら、何とか出来ますよね?」

ユフィが近づいてくる。死体のように転がっている私の前で四つん這いになり、私の指をその唇に含んだ。

「……んっ」

まるで飴を舐めるように、丹念に口に含み、ぴちゃりぴちゃりと執拗な位に舐め続ける。
その舌の感触が、指から肘、そして肩へと伝わり、その感覚に体が震える。
動かない身体。それでも感覚は凄く鋭敏で。

「はぁ…お姉様の汗、美味しい…っ」

ユフィは呼吸を荒くして、指から徐々に、非常にゆっくりと、丹念に、丁寧に、私の全てを味わうように舐め上げていく。唾液にまみれた舌が、音を立てて執拗に這いずる。
私はただ、その感触に身を任せていた。何も考えず、考えられず。ただ、その沸き上がる快感に、声にならない声をあげ続けた。

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