コーネリアは放課後の掃除をしながら、窓の外の空に視線を向けていた。空は乾いているようで、一見は透き通るような青色。だけど、何故か息苦しいような錯覚を覚えていて、薄い靄がかかっているような、そんなような気がした。
その見えない靄を消し去るように、消し去りたいように窓ガラスを拭く。力を込めても、意思を込めても、当然消えるわけも無く、ただただ息苦しさをますばかり。錯覚なのに。例え消し去っても、この息苦しさが消えるわけではない。
重い。意識が、気持ちが。海に沈むように、水に溶け込むように。
溜息をつき、鬱憤とした気持ちを振り払うように視線を逸らすと、見渡す視界にロイドとシュナイゼルの姿は見えなかった。一緒に、掃除をしていたはずなのに。
コーネリアは再び溜息をつくと、不真面目な二人の姿を探そうと廊下に出る。と、あろうことかロイドが一人、廊下の壁に身体を掛けて小説を読んでいた。

「ロイド、何やってるんだ。手が留守になっているぞ」

「んーちょっと待っててね。今丁度良いところだから」

ロイドは箒を抱えたまま、コーネリアの方を見ようともせずに、真面目だか気の抜けた声で返事をする。

「何を言ってる。遅くなってしまうだろう?」

「しょうがないなぁ…」

ロイドは呆れ半分に苦笑し、小説をポケットを突っ込むと、気だるそうに身体を動かした。まるでワザとこちらの神経を逆なでしていると勘ぐってしまう。

「全く、真面目だねぇ皇女様は…皇子はとっくに帰ったのに」

これから女の子とデートなんだって。そう言うあっけらかんと呟いたロイドの言葉に、コーネリアは頭を抱えたくなった。が、即座に気持ちを変え、とりあえず掃除に没頭する。
気が付けば、ロイドの姿も見えなくなっていた。コーネリアは手にした箒を叩き割った。

――――――――――

二人に何があったのかは、当人以外にはわからない。
だが、確実に二人の関係は変化していた。相変わらず、会話はあまり続かず、成り立たず、時にはよそよそしくも感じることがあったが、だが、不思議と以前よりは互いの距離が縮まっている。少なくともコーネリアはそう思っていた。

ふと、学園の一つの花が視界に入った。既に季節は過ぎ、枯れてしまった花。枯れた花。無造作にそれを抜くと、その廃れた花弁を千切る。

「貴女の想いは、枯れた花に水をあげるのと、同じじゃないの?」

数日前に聞いた、ロイドの台詞を思い出す。彼は何が言いたかったのか?何が聞きたかったのか?
幾ら考えても、その答えは出てこない。だが、彼に直接聞く気にもなれない。それは、何故だろうか?

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