床を蹴る渇いた音が、廊下に響く。普段は学生の喧騒で賑わっているはずのこの校舎も、早朝は静まり返り、空虚とかしていた。だが、後一時間もすれば普段どおり、活気の波で賑わうはずである。
その静けさの中、ロイドは急いでいた。逸る気持ちを抑えつつ、廊下を抜け、階段を上がっていく。
初めてコーネリアと出会ってから、ロイドは毎日朝早く登校をするようになっていた。生真面目に雑務をこなす彼女の時間に合わせる為に。どちらかと言えば、ロイドは早起きを実践するような青年ではない。時間一杯布団の中に入っていたいと思う側である。だが、ロイドは今こうして毎日早起きに勤しんでいる。他人の興味がないと自他共に共認しているロイドにとって、自分でも判るほどの異常だった。だが、今はそう言った考えが抜け落ちていて、彼自身理解できない感情が、彼を動かしている。
逸る気持ちは、彼女に会う為に。その気持ちを抑えられない。ただ、コーネリア。貴女に会いたい。
虚空で無音の空間に、薄っすらと白い日差しが差し込んでいる。空に浮かぶ雲の動きに合わせて、踊るように揺れている。ロイドは素直にそれが綺麗だと思っていた。ただの日常。何と言う事でもないのだが、それに感動を感じる自分が懐かしくて、嬉しかった。何時からか抜け落ちていて、以前の自分には無かったモノだから。
素直に感じ、それを思う。何時、忘れてしまったのだろう。きっと、それは遠い昔に、捨てて来てしまったモノ。でも、コーネリアが拾って来てくれた。ロイドは何時からかそう考えていた。遠い昔に忘れたモノが、今ようやく還ってきた。
確かにそうかもしれない。だが、それを実感すればするほど、ロイドにとってコーネリアは清楚でより神々しいモノになっていく。彼女も一人の人間であるというのに。以前のロイドなら気が付いていたかもしれない。だが、今の彼は気が付かない。一つの解決は、新たな迷宮を生み出す。そして、ロイドは迷い込んでいる事に気が付かない。だから、迷宮から出るために必要なモノもわからないのだ。 inserted by FC2 system