「ルルーシュ、後悔しているか」

暗い部屋の中でC.C.は静かに、だが聞こえるようにはっきりとそう言った。

「…………」

ルルーシュは俯いたまま答えない。大きく息を吐き、涙を流している。暗い床に、一つ、二つと、染みが落ちている。

「……ルルーシュ」

C.C.の声が聞こえる。ここに来て、初めて決意と言う言葉を知った。今までの暮らしを日常を捨てる。そう決めたのは自分自身の筈なのに。

王の力は、お前を孤独にする。

ギアスの制御が出来なくなった。その意味。

「……ルルーシュ」

C.C.が見つめている。凛とした声は部屋に残響し、何度も意識に入り込んでくる。自分の暗い濁った意識の中で、それは光となって輝く。

「決めろ、ルルーシュ」

決断を強いる、最後の通告。嗚咽を漏らし、倒れてしまった。心は割れそうな硝子のように不安定で、意識は消えそうなほど曖昧に漂っている。

「……俺は、もう立ち止まれない」

だけど、それでも、この覚悟だけは確かなモノ。だから、言葉にした。心が粉々に割れても、意識は空気に溶けてしまっても、この力を手にしたときに、覚悟を決めた。

「……だから?」

澄んだ声に顔を上げると、C.C.が僅かな黄昏を背に立っていた。彼女の表情が語る。これが、最後の問い、と。

「撃っていいのは、撃たれる覚悟がある……引き金を引く事の意味を理解できるモノだけだ……!!」

この先に何があるのか。だが、確実に破滅に向かう、絶望しかない道。誰に頼ることも出来ず、誰を信じることも出来ず、その果てへ騙し欺きながら、全てを踏みにじりながら進まなくてはならない。
修羅の道。この道の果て、踏み越えたとき、俺には何が残るか。

「俺は、進む」

嘆くな、後悔するな、決意を固めて、覚悟を決めろ。
道は間違ってるのかもしれない、何処かで踏み外したのかもしれない。だが、歪んでると理解してても、進む決意を決めた。それを覚悟と言わずして何と呼ぶ。

「そうか、ならば私は何も言わない」

柔らかい匂いがした。彼女に優しく抱きしめられたと気がついたのは、その時だった。

「だが、忘れるな。たとえ、お前がこの世界に独りになったとしても、この世界から消えてしまったとしても……」

ひびだらけの、傷だらけの、壊れかけたの自分の心にそっと降り注ぐ、優しい声。

「私だけは、そばに居ると」

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