地面を打つ音に気が付いて、窓から外の風景を眺める。闇夜の中に薄く光る雨が窓に反射して輝いているように、見えた。
彼女の視線に耐えられなくて、ずっと窓の先を見続ける。後ろでは、C.C.が一筋の涙を流していた。

――――――――――

深夜3時。C.C.はまだ起きていた。ルルーシュもまだ起きていた。互いにベッドに横になったのは良いが、眠れずに背中からの相手の体温を感じるだけだった。既に何時もなら深い眠りについている時間。互いに、互いの言葉が胸に絡み、眠気を剥ぎ取っていく。
ゆっくりと古い時計が音と時を刻んでいく。C.C.が古い骨董屋で探し出してきたものらしい。その音を聞きながら、足元から徐々に冷たくなっていく、如何にも居心地の悪い感覚を二人は覚えていた。
雨が地面を叩く。その音が時計の音と混ざり合い、心に浸食していく。軒下から滴る幾つモノ水滴が、少しずつ、だが乱暴に聴覚を犯していく。
互いに互いの思っている事が気になっている。振り向けば直ぐ其処に相手が居るのだが、二人とも動かなかった。それをするのは何故だか悔しい気がして。でも、気になる。早く動けと相手に念じつつ、自分の煩悶を抑える。
そうしている内にも、雨は降り続け。湿気を含む空気に、カーテンは重く揺れる。

――――――――――

「お前は何時も私に要求ばかりだ」

突然のC.C.の言葉にルルーシュは目を丸くした。何時もなら此処は皮肉のやり取りの筈だろうに、今日の彼女は直球の一本勝負だった。

「何だ…子供じゃあるまいし」

「お前は何時も私に文句しか言わない。部屋を出ればお前に文句を言われ、部屋に居てもお前に文句を言われ、お前に文句言われるからお前に文句言うとお前に文句言われ、何も出来ないからと不貞腐れればお前に文句言われ、お前の為に花や日常品を調達してもお前に文句を言われ、お前の八つ当たりの的にされて、チーズ君を抱きしめても文句を言われ、ベッドで大人しくしてても文句を言われ、食事をしてもお前に文句を言われ、黒の騎士団のアジトに行っても誰かしらに文句を言われ、愛人だの何だと言いがかりをつけられ、カレンにはお前を渡さないと言いがかりをつけられ、ピザを食べたいといえばカレーを食えと言われ――――――――」

C.C.の歯止めの利かない文句に、ルルーシュは頭を抑えた。まあ、確かに自分は言いすぎたのかもしれない。だが、不可抗力だ。それはお互い様だ。

「お前は子供か」

「子供ではない。だが、私だって人間だ。人形じゃない」

顔を背けていたC.C.と視線が合う。だが、ルルーシュは彼女の瞳を見なかった。彼女の瞳から、流れる一筋の涙から目が離れない。

「お前―っ!?」

何か言いかけたルルーシュの顔に枕が投げつけられた。何なんだと枕を投げ捨てると、C.C.の頬にまた一つ、涙の筋が描かれていく。
その何かを訴える、縋るような視線に耐えられなくなって、ルルーシュは窓の方に振り向いた。外は、雨が降っていた。

「お前は、私が必要だと言った。だが、その言葉に対してこの扱いは酷いんじゃないのか?居なくなられると困る?だから、この狭い箱庭に私を閉じ込めるのか?私だって子供じゃない。お前の言い分もわかるし、だからこそ譲歩している所もある。だが、お前は私を大切にしてくれているか?私はお前の駒か?それすらに値しないのか?」

まるで縋るような、何時もと違う懇願に、ルルーシュは一瞬言葉に詰まる。

「それは、違う」

だけど。

「では、何だ?私はお前のなんだ?他人?友人?恋人?相方?共犯者?それすらに値しない厄介者か?」

「違う!」

攻め立てるような、泣きそうなC.C.の声に振り向く。目の前には、チーズ君。

「言ったはずだ。お前は俺の傍に居ると。言ったはずだ。俺はお前の傍に居ると」

「…………私だって、たまには優しくされたい時だってあるんだ」

その言葉は、ルルーシュとC.C.の距離の近さを再認識させるには、十分すぎる台詞だった。

――――――――――

C.C.は身を起こし、ルルーシュを強引に自分の方に振り向かせた。上半身には何も身に着けてなく、暗闇の中でもわかるほどに、その肌は白い。その腕も、脚も、何処か人形の様な錯覚を覚える。

「明日も学校だろう?」

「……」

言葉に返事は無く。ルルーシュは何もせず、C.C.を見つめる。

「明日は起こさないぞ」

「……それは困る」

C.C.もルルーシュも、互いに何時もの調子の声。だけど、互いの瞳には熱がこもっていて。
C.C.はルルーシュを見つめ、ルルーシュはC.C.を見つめ。二人の視線が螺旋を描き、絡み合って。

「なら、早く寝ろ」

「……嫌だ」

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