「ただいま」

学園から帰り、声をかけたものの、あえて部屋には帰らない。拗ねた顔も可愛いから。待たせた分だけ、後で構ってあげよう。

――――――――――

買い物に半日を費やした。部屋に戻ると、奇妙な関係の同居人が、ベッドで本を読みながら寛いでいる。顔は見えない、上げてくれない。
ルルーシュはその華奢な背中を見つめた。その背中に流れる郡碧の髪。何処から仕入れてきたのか知らないが、若干短いスカートから除く足。本を少し乱暴に捲る指。その姿はまるで猫のようで。気ままに育った、けれど部屋から出れない我が侭な猫。けれどルルーシュは知っている。彼女は溌剌とした性格で、本当は外で遊びたいのだろけれども。
心の中で溜息を付いた。本当はC.C.と外で遊べたらもっと楽しいのだろうけれども。生憎、彼女は諸事情で外に出すわけには行かない。もはや、理由も忘れてしまったのだが。

「悪かった、C.C.」

呼びかけても反応は無い。それだけ怒っていると言う事。でも、約束を破ったのは理由があるのだ。

「ピザを買いに外に出てたんだ」

無視。その態度に虚しくなってくる。これだけこんなに彼女に依存していたのか。
甘えてくる時は何時だって唐突で、こちらが構いすぎると急にそっぽを向く。何だか、何時も自分が遊ばれているようで。情けないと思うこともあるけれど。
それでも、彼女のことが好き。

「…俺一人で食べるぞ」

紅茶を一口飲んで、また溜息を付いた。紅茶は少し冷めていた。だけれども爽やかな味に、咽喉を潤す滑らかさに、乾いた口内と喉が癒された。

「いらないのか」

「食べる」

ピザの箱を彼女の前に差し出すと、漸くC.C.は顔を上げた。だけど、ふっと我に返ったのか、ピザの匂いに釣られた自分が恥ずかしくて、顔を赤くして布団に潜り込んでしまった。猫が布団に潜り込んでしまった。何だかそんな気がして、胸がくすぐったい。
追いかけたい、だけど我慢する。ルルーシュは布団に潜り込んで、C.C.の背中に自分の背中とあわせる。布団は彼女の温もりで、程よく温まっていていて心地良い。捕まえたい、けれども我慢我慢。意地でも背中を堅くする彼女が可愛くて、つい笑いを漏らしてしまった。彼女の背中が堅く反応する。

「………ピザ、冷めちゃうな」

「―――――」

「折角、出前のやってない所に、わざわざ遠出までして買ってきたんだが」

「――――――――――」

今すぐにでも、抱きしめて、涙の後を舐めたい。けれど、必死に我慢する。今日は、たまには彼女から顔を出させたい。

「ルルーシュ」

漸く、猫が顔を出した。時間はそんなに経っていないはずなのに、随分と長く感じてしまった。ほらと、手を広げてやると、猫は勢い良く腕の中に飛び込んできた。優しく抱きしめてあげると、腕の中で喉を鳴らした。

「ルルーシュの、馬鹿」

背中からそっと抱きしめられて、爪をたてられた。だけど、それは程よい痛みで。抱きしめてくる力は強くて、寄り添うように、離さないようにC.C.は力強く抱きしめる。

「悪かった。でも、本当にピザを買いに行ってただけなんだ。正直、こんなに遅くなるとは思っていなかった」

「……知らない。お前なんて大嫌いだ」

言葉とは裏腹に、背中にかかる力は強くて。背中越しにC.C.の鼓動が聞こえる。彼女の体温はルルーシュより少し高くて、程よく暖かい。

――――――――――

「……ん」

C.C.の手を取って、指先から手首まで丹念に舐めた。先程までピザを食べていた彼女の手は少し美味しくて。つい丹念に舐め上げてしまう。彼女の手の震えが少しずつ大きくなってきて、呼吸も荒くなってくるのも感じる。

「や……ルルーシュ」

「…嫌か?」

そういうわけじゃない、とC.C.の身体がルルーシュの下で跳ねた。逃がさないように彼女に被さり、深く口付けをする。身体を押しのけようとする手が、深く身体に食い込む。それでもルルーシュは動かない。
瞼に浮かんだ涙をそっと舐め上げた。少し甘く感じる。まだ堅い身体を解すように、耳から、首へ、そして服の下へ舌を這わせていく。優しく服を脱がせながら、丹念に、丹念に。猫の鳴き声を聞きながら、甘い身体を舐め上げていく。

「…ふ」

何時の間にか、ルルーシュの首に手が回されている。鈴のころがすような声と、自分の荒い呼吸。肋骨の辺りを噛むと、彼女が身体を強く振るわせた。それに構わずに、更に下へ舐めていく。

「美味しいよ、C.C.」

「……っぁ」

綺麗な猫。その猫が自分の下だけで鳴くなんて、なんて優越。彼女の蜜を舌先で含み取って、忙しなく喘ぐ彼女の口に運ぶ。交わされる甘い液体と、痺れるような甘い時間。

「ル、ル……シュ」

この時間だけは、彼女が自分の傍に居るのだと感じられる。何時か消えてしまいそうな彼女が、自分の傍に居ると。この世界に、二人だけ。

――――――――――

風呂から上がっても、彼女はまだ寝ていた。今日は、少し可愛がりすぎたのかもしれない。
ルルーシュは苦笑すると、窓を開けた。二人の匂いが風に乗り、外に流れていく。空は随分日が伸びたものの、まだ明るい。

「…散歩に行くか」

C.C.と一緒に。たまには、大丈夫、だろう。夜だし。得てしてこういう時は、大抵悪い事がおきるのだろうけれども、深くは考えない。
今日は黒の騎士団としての活動も無い。遅くまで出歩いても、大丈夫。多分。
何故だか付き纏う不安を胸に、ルルーシュは未だ寝ているC.C.の頬に触れた。

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