傘を持ってきた日に限って雨は降らず、傘を忘れた日に限って雨は降る。
放課後の昇降口で灰色の空が渦を巻く。その様子を眺めていたルルーシュは、やり場のない気持ちを溜息に乗せ吐き出した。
突然の夕立。いや、突然だから夕立というのかもしれないが。空を飛ぶ鳥達は横殴りの雨に晒され、荒れる強風に翼の舵を取られている。激しい風に流される雨は下足場の辺りまで濡らしていた。
未だ夏の匂いを残した空気に、秋の雨が降り注ぐ。少ししたら止むだろうかと、ルルーシュは空を仰ぎながら考えた。

「ルルーシュ」

「っ!?」

ぼんやりと眺めていた意識に、落ち着いた物腰の、柔らかいトーンの声。吃驚に思わず身体を震わす。無意識に唾を嚥下した喉元が生々しく音を立てた。

「驚かしたか?」

「C.C.…お前…っ!」

群碧の髪に少しきつめの制服。その姿を確認し、安堵の息をつきながら昂った鼓動を鎮めるように二、三度深呼吸を重ねた。

「そんなカリカリするな。ほら、傘を持ってきたんだ」

――――――――――

何時もと同じ帰宅路なのに違和感を感じる。となりを歩くC.C.に視線を送る。横顔が整っていて、その中に若干の気だるさが隠れている。

「私の顔に、何かついているか?」

「いや、なんでもない」

思わず見惚れていた。なんては口が裂けても言えない。不思議そうに首を傾げるC.C.から視線を再び前に向けた。
何分か経たないうちに、クラブハウスの入り口に到達する。だが、不思議とルルーシュにとってはとても長いように感じられた時間だった。それが良い意味でか悪い意味でかはルルーシュ本人にも判断がつかなかった。

「しかし、何故わざわざ来た。クラブハウスなんて歩いて数分の距離だろ」

「……お前が心配だった。では不服か?」

憂いと優しさを足して二で割ったような瞳。動揺が奔る。それを内面にひた隠しにして、ルルーシュは深呼吸をする。

「冗談はやめてくれ…」

だが、C.C.は既に遠くに居て。自分の声が聞こえていたかも定かではない。後手にひらひらと手を振って、振り返ることなく歩いていくC.C.をルルーシュは呆然と見つめる。
心配だった、か。
それが共犯者としての一言か、或いは別の思惑か。どちらにしても、C.C.に必要とされている。当たり前なのかもしれない。だが、それでもルルーシュははにかんだ表情を戻さなかった。確かに、あの言葉に違ったニュアンスを感じたから。
偶には、そんな自惚れも良い。

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