ルルーシュがPC内のファイルの整理を始めてからおよそ一時間。幾分かの不安な要素はあったが、粗方消化し、作業自体はスムーズに進んでいた。何事も邪魔が入らなかった事もあるが、やはりルルーシュ自身の集中力が物を言ったのだろう。
「…休憩するか」
そう呟いて、ルルーシュは椅子の背もたれに伸びをしながら身体を預けた。全身の力が椅子に吸い込まれてしまうような感覚に思わず、うーん、と気の無い声が漏れる。
「…くっ」
後ろから笑いを噛み殺している少女の声が聞こえる。振り向くとC.C.はその顔に何とも言えない表情を貼り付けて笑っていた。
「……C.C.」
「何だ?邪推はするなよ?疲れているだろうと思ってわざわざこそこそと飲み物を調達してきてやったんだからな」
溜息と共に漏れる声に、あっけらかんと抑制の無い棒読み。
「そんな眼で見るな。皺が増えるぞ?」
その大半はお前の所為だ…!ルルーシュの苦悩も知らず、C.C.は笑いながらPCの横にコップを置いた。
「シー…っ!?」
何か言おうと開きかけたルルーシュの口が再び閉じる。C.C.の手がルルーシュの肩を揉んで思わず身体が強張ってしまった。
「凝っているな…ルルーシュ。お前、休みをちゃんと取っているか?」
嫌に調子の弾んだC.C.の声がルルーシュの胸に溶けていく。彼女の慣れた手つきに、ルルーシュの身体から力が抜けていき、次第に肩からほぐれていく。
「……部屋はピザ臭い。寝るときはベッドも半分。更には我が侭な居候…これで休めると思うのか?」
ルルーシュの鋭い声。ここぞとばかりに言い放たれた声は、C.C.のやる気の無い声にあっさりと受け流された。
「ふぅん…じゃあ、今から休むか?」
ベッドの上に正座し、腿を叩くC.C.の姿を見て、ルルーシュは眉を細めたが、直ぐに表情を戻し、C.C.に背を向けた。C.C.はその表情の変化と態度を見ながら、内心はその反応一つ一つで楽しんでいる。
ルルーシュはあれからずっと背を向けて作業に打ち込んでいる。C.C.はその後姿をずっと眺めていた。その姿はふらふらと揺れているようで、ぐらぐらと不安定な自制心はどちらに揺れているのか。自分がもう一言言えば、彼は休むのだろうか?ただ単にルルーシュをからかう為についた冗談は、何時しかC.C.自身の密かな想いを果たすために動いている事に彼女自身が気が付かない。
「ルルーシュ…怒ったなら謝るぞ?」
C.C.はそっとルルーシュを後ろから抱きしめた。椅子の背もたれに邪魔されてルルーシュの体温は感じられなかったが、その代わりに思った以上に肩の細さを実感する。
C.C.は何処からか漂うシャンプーの香りに誘われるように瞳を閉じる。ルルーシュは何も言わなかったが、ただ彼女に抱きしめられていた。