ルルーシュは音楽を聴いていた。最近は立て続けに想定外の出来事に巻き込まれ、非常に疲れている気がする。その暗く下を向いた心を落ち着かせようと音の波に意識を傾けていく。
空虚の部屋に響く、絶望の序奏。そこから繋がる世界は束の間の夢のようで、儚いながらも強さを持ち、甘美ながら悲哀を抱えるその音楽は、ルルーシュのお気に入りだった。まるで、自分のように思えたから。
「ルルーシュ、帰っていたのか」
音の海に身を任せた瞬間、そのタイミングを見計らったかのように、同居人が姿を現した。その手にはトレイ。その上にはピザと何かの飲み物。彼女はそのまま机にトレイを置くと、横になっているルルーシュの隣に座った。
「C.C.」
片目を開け、目で退けと送るも、彼女は涼しい顔で其処に座り続ける。絶望と虚空のメロディにピザの匂いが乗って流れてくる。台無しだ。
「……まるで、この音楽はお前を音現したような曲だな」
「何故、そう思う?」
「袈裟だけの、陳腐で拙い人形のようだ」
C.C.は皮肉を込めた哂いで答えた。ルルーシュは何か言いかけた口を閉ざす。反論も億劫になるほど疲れていると其処で改めて実感した。
「……言ってろ」
C.C.に背中を向けて再び瞳を閉じた。面倒だ、寝てしまえ。
「ルルーシュ、クラシックと正反対の音楽を知っているか?」
「………」
無視。眠い、面倒臭い。そのまま流れる旋律に意識を任せて落とす。
「それは、ラップなんだ。クラシックは貴族の音楽、ラップは奴隷の音楽」
「………」
C.C.はルルーシュのシャツの下から背中に手を重ねる。その身体のラインをなぞる様に指が流れていく。だがルルーシュは既に何の反応も見せなかった。既に身体が一定のリズムで揺れていて、規則正しい寝息は完全に寝ている事を示していた。
「……ち、つまらん」
C.C.はベッドから離れると、机の上に置いてあったピザを一口齧った。既に冷え切っていて、少し堅かった。悲愴なメロディが部屋の中に溶けていく。C.C.その音楽に耳を傾けつつも、既に冷えたピザを次々に消化していった。
…お前は、何の感傷に浸っているんだ。何かが突っ掛かって気分が晴れない。C.C.はその苛立ちを誤魔化すようにルルーシュの隣で瞳を閉じた。意識が離れる最後まで、悲愴と悲哀のメロディが頭から離れなかった。