黄昏と呼ぶにはまだ明るい。太陽はとうに沈んだというのに、西の空は未だ茜色に染め上げられていて、眩しいほどに輝いている。ゆったりとした夕暮れの時間を味わいながらルルーシュは自室のドアを開けた。
部屋の中には少女が寝ているだけ。西日を浴びながらまるで猫のように丸まって寝ていた。余程暇だったのか、普段は興味も示さないルルーシュの読んでいる雑誌が机の上に積まれていた。

「C.C.?」

静かに近づいて小さな声で囁く。反応は無い。規則正しい、穏やかな寝息が聞こえるだけ。ルルーシュはその顔を少し上から眺めている。
C.C.の寝顔は彫刻のように整っていて。端正な顔立ちに、長い睫毛。幾筋の翠緑色の髪が彫の深さを際立たせていて、斜めに差し込む夕暮れの輝きが、柔らかく彼女の身体を照らしている。
ルルーシュはその姿に不意に既視感を感じた。切ないような、儚いような、懐かしい…気が付くまで、それほどの時間はかからなかった。

ナリタ戦の時のC.C.。
暗い洞窟内で眠る彼女は、確かに美しくて。
冷えた空気が満ちる中、そのまま溶けてしまいそうに思っていた。
あの頃は…だけど、今は。

ルルーシュはそっとC.C.の髪に指を埋めた。何時もより柔らかく感じるのは、陽光をずっと浴びていたからだろうか。指が絡まないように、静かにゆっくりと髪を梳いていく。
どれだけ時間が過ぎただろう。部屋の中は若干暗くなり、差し込む光の角度が大分変わっていた。その時間の間、飽きることなく梳いていた手を離すと、C.C.は小さく身動きし、その瞼をゆっくりと開けた。

「…ん?何だ、もう帰って来たのか?」

「……C.C.、お前は何時間寝てたんだ」

間延びした声と、寝起きの表情にルルーシュは少し顔を赤くしたが、それを悟られないように普段通りに振舞う。夕焼けだから、きっと気が付かないはず。

「……お前、私の髪を弄っていたか?」

「………何でだ?」

ルルーシュの言葉に答えずに、C.C.はルルーシュに聞く。内心鼓動を早めながら、素知らぬ風に理由を聞く。

「そんな夢を、見たからな」

寝起きだからか、夢見が良かったからか、はたまた両方か。だらしが無いぐらいにC.C.の顔が緩んでいた。夕暮れの所為か、頬を赤くしているその表情は本当に子供みたいで。自分の顔が更に赤くなっていくのをルルーシュは自覚する。
答える代わりに、彼女の翠緑色の髪にそっと口付けを落とした。陽光をたっぷり吸い込んだその髪は、蜂蜜みたいに甘い気がした。

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