目を開けると同時に明るい世界が一面を支配した。さらさらと流れる風が心地よい。太陽の光が溢れ、身体には温かさが満ちている。そのまま空を見上げる。晴れ渡り、雲ひとつない空。だが、其処には悲しみしかない。果ての無い、際限の無い悲嘆。虚空は青。
首を回しても、見慣れた景色は何も無い。これから何度の目覚めを経験するのだろう。それを考えるだけで絶望感に打ちのめされる。

「………」

青すぎる空、それに少しだけ心地よい風。花の匂い。その気持ちよさが、さらに自信を不快にさせて行く。

「僕は、何所に帰れば良いんだ…」

「…何だ。迷子か」

思わず漏れた言葉に思いもしない返事が返ってきて、上体を起こし声の方に体を向けた。其処に立っていたのは、見た事もない少女。その服装も印象的だったが、それより映える緑の髪が印象的だった。

「……誰ですか、貴女は」

「見て解らないのか?魔女だよ、魔女」

何所からどう見ても魔女に見えなかったが。その自称魔女は持っていた日傘で光と僕を遮った。

「……その魔女が何の用ですか」

「何、迷子の子供を発見したのでな。送り届けようと思った所だ」

僅かな微笑で話しかけてくる自称魔女。何か引っかかるモノがあったが、僕は気にせずにそっぽを向いた。

「僕には、帰る場所なんて無い。追い出されたんだ。優しかった母上も、もう居ない」

言っていて、自分で寂しくなってきた。少し体が震える。

「……じゃあ、あの声は。お前を呼ぶ声では無いのだな」

少女の声と、何所か遠くから聞こえる親友の声。振りむくと、少女は変わらない微笑を携えたまま、僕を見つめていた。

「過去は無理でも…未来なら。それで充分じゃないのかな」

空を見上げながら、少女は呟いた。瞬間、風が吹いた。日傘に視界を一瞬奪われ、その後には誰も居なかった。ただ、彼女の髪と同じ色の草が風に流されて揺れている。
遠くで、小さい花が咲いていた。薄紅の花弁。その横で、親友が手を振りながらこちらに向かって来ていた。

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