「おい、C.C.」

呼びかけても、彼女から返事は返ってこない。もう一度呼びかけても、反応無し。カーテンの間から漏れる夕焼けの光を浴びながら、彼女が寝ているベッドに歩を進める。出来るだけそっと。

「C.C.…?」

まるで死んでいるかのように、分かっていてもそう錯覚してしまうほど、今の彼女は美しかった。寝汗と僅かに染まった頬が、何処か淫靡な雰囲気を醸し出している……?

「………」

ふと疑問に思い、その額に手を当ててみた。ああ…やっぱり。少し熱っぽいな…風邪か。

「…ん、にゃ…ル、ルーシュ?」

子猫が鳴いたような僅かな囁きが俺の耳朶を刺激した。何だかそれが可愛らしくてつい笑ってしまう。俺の姿に気が付いたC.C.は寝ぼけ眼のまま眉根を寄せた。

「何だ…突然」

身体を起こそうとしたC.C.の肩を押して再びベッドに寝かせる。

「…きゃっ」

「………まだ寝てろ」

そのまま、頭を撫でる。出来るだけ、優しく。彼女が安心できるように。彼女にも自覚はあったのか、そのままベッドに倒れ込んだままだ。

「私は、風邪なんて引かない」

その言葉を、鼻で哂って一蹴して撫で続ける。

「……やめろ、私は子供じゃない」

C.C.は頬を染めたまま、こちらを見上げてくる。中々気持ちよかったのだが、しぶしぶ手を放す。と、離れると同時にC.C.の顔が一転、寂しそうなモノに変わった。

「―――ぁ」

だから、その手を戻した。今度は、何も言われない。

「………」

互いに無言。

「ルルーシュ」

「……何だ?」

何処かぼんやりと視線を虚空に向けていたC.C.が俺の方を向いていた。

「暖かいな、お前の手は」

そう、笑った。花のように。あまりの不意討ちに、彼女以上に顔が染まっていくのを自分でも確かに感じる。そのまま、彼女は俺の胸にしだれかかってくる。
そのまま、目を閉じた。ああ、幾ら鈍感な俺でも、何を求めているかは直ぐに理解した。俺も、瞼を閉じてその唇に――

「…お兄様?」

ふと、開いたドアから闖入者。振り向くと、そこにはナナリーが。

「…どうしたんだい?ナナリー」

「あ、いえ。夕飯の時間になっても、来ないので…」

時計を見ると…思っていた以上に時間が過ぎていた。

「もう、こんな時間だったのか、すまないね。直ぐに向かうよ」

そう言って、椅子を立つ。C.C.の切なそうな双眸が、胸に絡みつく。それを振り切るかのように、俺は部屋を出て行った。

――――――――――

そこにいるのは、ナナリーと私だけ。ナナリーの後ろにいる小間使いは数に入らない。

「C.C.さん」

「……何だ」

私の名前を呼んで、彼女は鼻で笑った。それは、あからさまな意思表示。彼女に見えないと分かっていても、いや、見えないからこそ私は柳眉を逆立てて睨みつける。
私の感情を言葉から、不快感を感じ取ったのか…

「お兄様が、好きなんですね」

そう、笑った。花のように。寂しそうに、でもその中に紛れも無い喜びが含まれていた。思わず毒気を抜かれて、私は一瞬呆然とした。

「でも、お兄様は渡しません」

 

 

 

 

 

 

 

ナナシーですが、何か?マイナーって言うなっ!! 

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