シャワーの音だけが、この室内に響いていた。ただ一条の光も無い浴室の中に、深々とした空気だけが満ちている。シャワーから勢い良く流れる水はこの身体を冷やし、意識さえも削っていく。
「ルルーシュ」
勢い良く流れる水に溶け込むように、凛とした声が響いた。
「ルルーシュ」
一度目は水に溶けて曖昧に、だけど二度目は水に溶けてもはっきりと、この耳に届いた。顔を向けると、そこには暗闇の中でも分かるほどに映えた、緑色の髪。
「C.C.」
「こんな所にいたのか」
水の降りしきる音の中に、一つ二つと足音が混ざる。彼女は、何も着ていなかった。まるで雪のような白い肌に、紅い疵痕。
「………何をしてるんだ」
「水、風呂だ」
そう、水風呂。浴槽半分まで溜まっている。そこに俺はただ身体を埋めていた。そう、埋めていた。
「そう言う事を聞いているんじゃない」
「……は、冗談だ」
我ながら思う。何て愚考、陳腐で惰弱。自分自身への罪を煙に巻いて、ましてやC.C.に皮肉るなどと。哂う。ああ、哂う。情けなくて、俺は自分の心を哂っていた。
「ふっ、そんな事が言えるなら、まだ大丈夫か」
だが、C.C.は安堵したような溜息をつくと、浴槽に足を沈める。続いて、腰、胸、そして肩まで。暗黒の、暗闇の水の中に、紅い疵痕がその存在を光らせていた。
シャワーが雨を降らせる。冷たい罪の雨を。その降り注ぐ雨は浴槽から溢れ、止め処無く零れていく。まるで、俺の心から悲しみと後悔が漏れ出しているように。
「……何のつもりだ」
「何のつもりも無い。そろそろ、時間だからな。行方を眩ませている皇子を探しに来たのさ」
鼻で哂うC.C.を俺はただ見つめていた。何故だか、彼女が無理をしているようで。
「―――――」
彼女の真名を口にする。それは雨の音に消され、誰の耳にも届かない。
「…?何か、言ったか?」
「……無理をするな、と言ったんだ」
「っ、は?何を言い出すんだお前は」
哂われた。あの女を殺して、頭が可笑しくなったか?何て哂い出す。冷ややかな侮蔑の視線を投げられて。
「遊んでいる暇は無い。泣いている、悔やんでいる暇も無いぞ」
緑色の髪が、重たそうにゆれた。白い身体が、重たそうに水から上がった。細い足が、重たそうに動いていた。
「……泣きたいなら、私と泣け。私は、共犯者だ。お前の、悲しみも、罪も、苦しみも、罰も…解かってやる事も出来る。背負ってやる事も出来る」
その呟く様な言葉は、雨にかき消された。だけど、確かに残った。何処にと言うことも無い、俺の心に。