空虚を眺めていた。窓から差し込んでくる光に晒される男。目の前には女。手には後悔。握り潰すように堅く閉ざしても、変わるのは手の皮膚の色だけ。夕焼けの日差しは弱く、空気は肌寒い。窓の外は腐廃と狂気で満ち溢れている。
絶望が胸を締め付け、悲しみが身体を震わせる。寒い、凍えてしまいそうだ。覆らない失敗は、望んだ未来を握りつぶし、最悪の未来を創り出した。己への罪に潰されそうになる心を、何とか繋ぎとめようと唇を噛む。

「ルルーシュ」

女の髪が男の顔にかかる。その緑の色は心を落ち着かせる。女の手が男の頬に触れる。その手は更に冷たく、冷えた感触が心地よい。女の腕が男を包む。その身体は感触を持たず、だが、暖かい。身体の震えが止まった。心の翳りが音を立てて崩れていく。
目の前には陽炎。思い浮かぶは虚空の風景。無為な幻。それ故に切望、羨望した未来。男の手を握り女が廻る、躍るように。桃色の髪は風に踊り、蒼い世界に映えている。女の中から溢れる光が眩しい。それは瑞々しい生命力。意志の証。あらゆる可能性を秘めていた。

「契約だ」

その言葉に、男は顔を上げる。女の瞳が金色に淡く光っている。

「お前は、私の願いを叶える」

女は掌を男の胸にあてる。高鳴る鼓動が、速く鐘を撃つ。

「その代わり…私はお前の願いを叶えよう」

男の掌が、女の顔を包み込む。冷たい、冷たい体温が腕を伝わり、身体を沈ませる。

「さあ、言え。お前の願いを。示せ、私に」

「……俺は、もう止まらない」

思い浮かぶは陽炎の景色。

「全てを乗り越えて、お前の願いをこの手に掴む」

虚空の風景。無為な幻。それ故に切望、羨望した未来。

「だから、俺の傍に居ろ。最後まで」

男の手を握り女が廻る、躍るように。桃色の髪は風に踊り、蒼い世界に映えている。女の中から溢れる光が眩しい。それは瑞々しい生命力。意志の証。あらゆる可能性を秘めていた。

「……ああ。お前の傍に寄り添おう。最後まで」

もう、何も見えない。こうなる事は分かっていた。もう戻れない。そう決断したのも、それを実行したのも自分だ。だから、もう、未練はない。

後悔は無い。後悔は見ない。三度、悪魔の契約。
一度目は、覚悟。
二度目は、再会。
そして、三度目は、決意。

瞑目する。
瞳の涙はじきに止る。胸の痛みはじきに治る。

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