秋の空はくっきりとして広がっていた。それこそ手を伸ばしても決して届かないと思うぐらいにとても、とても高く感じられた。だけど、それは錯覚だ。秋の空は逆に低い。空気が澄んでいるから高く見えるだけらしい。そんなくだらない事を考えながら校舎を出た。
木の葉が落ちていて、すっかり秋の様相を見せている。風も心なしか肌寒い気がする。何故だか真っ直ぐ帰る気になら無くて、少し前にカレンと寄り道したあの喫茶店に足を運んだ。
「いらっしゃい」
店内には誰もいなかった。いや、誰かいることが稀なのだが。何時もの席に向かう。向かいの席に鞄を置くと、何時ものコーヒーを注文した。やや暗い店内に、午後の柔らかい日差しが差し込んでいる。
此処には時間の概念が無いのだろうか。何時も思うことだ。此処に入ると何時の間にか日が暮れているのだ。
「…おまたせ」
そして、気が付くと何時の間にか目の前にメニューが置かれている。店に意識が傾いた、とカレンが言っていたが、成る程。言い得て的を射ているのかもしれない。
カップを口に運ぶと、生クリームからコーヒーの味が染み出して、優しく舌の上を流れていく。コーヒーも、生クリームも独自の工夫を凝らしているらしい。何時か教えて欲しいとは思っているのだが、中々口が堅くて―――
――――――――――
店を出ると、すっかり日は落ちていた。学園に近づくたびに、何処か抜け落ちていた感覚が戻っていくのを感じる。だけど、余韻だけは抜けなくて。
(ナナリーが心配するな)
もう夜か。思わず足を速める。見渡す道路に人は無く、車も走ってなかった。恐らく、恐らく偶然なのだろうが、それでも不安になってしまう。
「ルルーシュ」
聞きなれた声が鼓膜を刺激した。振り向くと其処にはC.C.。
「…お前」
「邪推するな。ナナリーに頼まれてしまったんだ」
よっぽど間の抜けた顔をしていたのか、C.C.少し含みながら呟きながら歩き出す。その後姿を眺めながら、後を着いて行く。
何か、可笑しい。何処か、違和感がある。漠然としすぎてて何も解からないが、兎に角何か変だ。
「C.C.、何か、何か変じゃないか?」
「…どうした?」
俺は正直に疑問をC.C.にぶつけてみた。あの喫茶店のことも、その違和感のことも。
「………」
「C.C.?」
「さあな。そんなの私が知るか……そうだな、言ってやるなら、化かされたんじゃないのか?」
鼻で笑って、C.C.また歩き出す。俺は彼女の後姿を目で追いながら、あえて落ち葉の上を歩いていく。落ち葉は乾いた音を立てながら地面に落ちていった。