何の因果か気まぐれか。ルルーシュと一緒に買出しに出かけることになった。それが嫌って訳じゃないけど、やっぱり好きになれなくて、気まずい。
私が話しかけても、何を考えているのか、要領の得ない返事。上の空って感じだった。
その気まずい雰囲気の中、何事も無く、学園への帰り道を辿っている。

(はぁ…早く終わんないかしら)

割と歩道は広く、二人並んで歩いても、まだ道幅には余裕がある。だから、当然私の隣にはルルーシュが居て。私の横で歩いている。

「あ?」

急に、私の隣で間抜けな声を上げて、ルルーシュが立ち止まった。無意識にルルーシュの方に振り向いたら、進行先の電柱にぶつかってしまった。

「あ痛っ!」

「………大丈夫か?」

笑いを押し殺す声と、表情。恥ずかしさと情けなさ、それと痛みで涙が込みあがってくる。

「……大丈夫っ!」

差し出した手を払い除けて立ち上がる。その時に空に一羽、二羽と小鳥が飛んでいた。それがどこか寂しそうに見えた。

「…カレン?」

「……何でも無いわ。それより、どうしたの?」

まだ笑いを堪えているルルーシュを目線で牽制しつつ、彼の視線の先を追った。
古い看板。ペンキの剥げかけた外装。お世辞にも綺麗とは言い難い建物。何かの店らしく、眼鏡をかけたオジサンの人形が店番をしていた。

「此処、寄って行こう」

「…はぁ?」

妙に楽しそうなルルーシュの声と、反比例して傾きそうな何かの店。ルルーシュと何て冗談でも無いと言おうとしたけど、何故だかあの小鳥が脳裏を遮った。

「……いいわよ」

だからかな。別にルルーシュも私も寂しいわけじゃないだろうけど、入ってみる気になってしまった。日が落ちて、少し肌寒くなってきたから、暖かいものでも飲んで落ち着きたいな。
そんな言い訳を胸に隠して、私はルルーシュの背中を追った。オジサンの人形が、私の心を見透かしているかのように笑っていた。

「いらっしゃい…と―――」

「こんにちは―――」

中に入ると意外に暖かく、綺麗だった。少し狭く、薄暗いけれど、かえってそれが落ち着かせてくれる雰囲気を醸し出しているのかもしれない。
店主とルルーシュはどうやら知り合いらしく、何やら話しに花を咲かせている。クラシックのBGMと二人の談笑を耳に流しつつ、私は手近な椅子に座る。

「ほら」

店の雰囲気に意識を傾けていた私は、その声で現実に引き戻される。振り向くと、ルルーシュがお盆を私の目の前に置いた。その上には小さなショートケーキと、良い香りのする紅茶。

「あ、いただきます」

つい反射的にお礼を返し、そのままケーキを口にする。程よい甘さが口の中に広がっていった。

――――――――――

店を出たとき、オジサンの人形がお辞儀をしたように感じた。勿論それは錯覚だけれども、何故だかそう思った。

「随分親しかったみたいだけど、良く行くの?」

「ああ、リヴァルとの賭けチェスの帰りとかに」

「ふーん…」

ふと、ゼロの事を思い出した。彼もチェスが異様に強い。当然素面でも誰にも負けた事は無く、玉城とかが悶絶してる横で、最善の一手を放ち、其処から忽ち戦況を覆すのだ。扇さんと藤堂さんの一戦。最早扇さんの負けは確実だろうと誰もが思った状況で、ゼロは鮮やかに言ってのけたのだ。

「王を動かせ、さすれば駒は着いて来る」

そう一手。続く二手三手、最後には逆転。あの時の台詞と、藤堂さんの顔は、今でも語り継がれている。

「カレン!」

「っ!?な、何?」

急にルルーシュの顔が目の前にあって驚いてしまった。思わず後ろに下がると何かが思いっきり後頭部にぶつかった。

「あ痛っ!」

「………」

あまりの痛さに蹲る。あぁ…本当に痛い。

「呆けてるからだ」

「……悪かったわね」

小馬鹿にする嫌味に反論しようとルルーシュを見上げる。ルルーシュの真上で、飛行機が真っ直ぐに飛んでいた。雲を牽いて、潔く格好よく飛んでいた。

「…ほら、行くぞ」

ルルーシュの手が私の手を掴み、立ち上がらせて引っ張っていく。

「ちょ、やめてよ!」

「……お前は何処か調子悪いみたいだからな」

そう言って、手を離さない。気恥ずかしさに顔が赤くなっていくのが分かる。でも、私も離そうとはしなかった。

「そういえば、さっきの喫茶店。お金払って無いけど…」

「ああ、あそこ。彼女と行くとタダにしてくれるんだ」

恥ずかしさを誤魔化そうとした話題に、飲み物とケーキだけだけど、と彼は付け足して答えた。その言葉は私の顔を更に熱く、暑く、紅く、赤くしていく。

「だから、会長やシャーリーと、良く行くんだ」

――――――――――

あの日以来、あの喫茶店に頻繁に寄るようになっていた。そこで聞いた話なんだけど、ルルーシュはリヴァルとはよく来るみたいだけど、女の子と来たのは私が初めてだという事。あの日は既に彼が代金を払っていた事が分かった。

「……馬鹿な人」

そう呟いた私の顔は笑っていた。私の心は咲いていた。

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