暗い、暗い夜の幕が降ろされていく。
その先は、何も見えない。

――――――――――

その日、その時、その夜。私は其処に居た。決して誰も入る事の無かったゼロの私室。其処に今、私は居る。
虫の知らせと例えるのは無粋だろうか。だが、運命と言えば月並み。偶然、そうただの偶然だった。

「ゼロ」

自分でも不思議に思うほどの冷静な声。目の前の男はこちらを振り向いた。何時も傍らに立つ女は居なく。今この部屋には彼と私だけ。

「…………」

見慣れた髪。見慣れた瞳。何時かは思っていた。彼の正体。

「……ルルーシュ」

傲岸で、不遜で、面倒臭がりで。でも妹思いの優しい面もある、複雑な人。
でも、今の彼は何処か可笑しい哂いを浮かべていて。その表情が私の背筋に悪寒を走らせる。
私と彼の間に流れる窒息しそうな緊迫。冷えた月に照らされている、黒く塗り込められた世界。それを絶望だと、私は感じていた。

――――――――――

身体が、濡れている。体中が冷たい汗を纏っている。体中を流れる、言いようの無い不安。
彼を待つ余り、何時の間にか寝てしまったのか。何時もは誰かしら待機している部屋には、私が独り。その部屋の中に総毛立つ恐怖が、自覚するほどに満ちている。
目が覚めたときから、何処か確信はあった。余りに陳腐で、自分自身捨てていた憶測だったために、理解するのに一瞬遅れた。
ゼロ。誰よりも孤独で、誰よりも愛しい。彼の正体。何故だろうか、揺ぎ無い確信を持って私は目を醒ました。
彼の正体、それが解かった所でその先に、何が待っているのだろうか。だが、何が待っていようとも、直ぐ其処に迫ってきていた。
息を吐く。小さく深呼吸をした。冷たい空気が肺を満たしていく。冬が近い。心地の良い季節が終わり、深闇の冬が来る。
重い身体を引きずって、階段を上がっていく。心臓はゆっくり、ただゆっくりと鼓動を繰り返す。そして、階段を上がりきり、目の前の重苦しい扉に手をかけた。

――――――――――

私の日々は、あっさりと、それこそ拍子抜けするほどにあっさりと終わりを告げた。簡単に、冷酷に、唐突に、消え去った。
私はもう引き返せない。全てが終わっても、求めていたモノは手に入らない。私は今、このときに、紅蓮の騎士となったのだから。
下で、彼が眠っている。ただ静かに、ただ眠るように、ただひたすらに、ただ安らかに、私の腿に頭を預けて、彼は眠っている。私は彼をあやす様に、慰めるように、その頬を撫でる。愛しい、愛しい気持ちを込めて。

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