「C.C.。ルルーシュは…?」

「心配するな。カレン。疲労が溜まっただけだ。養生すれば直ぐに治る」

――――――――――

「―――――?」

屋上にに、C.C.の澄んだ歌声が響いていた。だが、ふとその曲が途中で止まる。カレンは水筒に注ぐ手を止めた。見ると、C.C.は不意に忘れてしまったようで、露骨に顔を顰めていた。
C.C.は宙を睨み、何とか思い出そうとするのだが、全く判然としない。

「C.C.?」

「カレン…今の歌、知っているか?」

ごめん、と一瞬の間を空けて、カレンは答えた。そっと目を逸らしたカレンに無言でC.C.は手を伸ばす。カレンは自分の頭にかざされた手をどかす事も無く、ただその仕草に身を任せていた。C.C.がそっとカレンの頭を撫でる。何だかカレンは嬉しくなって、その顔から笑みが漏れた。

「……ルルーシュは、アイツは孤独だ。色々なモノに囲まれて、たくさんのヒトに囲まれても、アイツは独りきりだ」

C.C.は独り事を呟くように、歌うように空に放つ。カレンはただ何も言わず聞いている。
雲に隠された太陽。だけどその雲の切れ間から僅かな光が線になり、学園内の中庭、小道を煌々と照らしていた。

「それでいて、沢山のモノを背負っている。そのモノが重いかどうかは私には分からないが…アイツは進んでいけるだろうか」

時が過ぎていく事に重くなっていく彼の執念。重なっていくモノは高く積みあがり、重くなっていき、上手くバランスを取らないと直ぐに崩れてしまう。だけど、一度背負ったモノは降ろせなくて。
それは、もし落としてしまったら、どうしても、どう足掻いても決して元に戻せない、拾いなおせないから。

「……C.C.貴女、共犯者なんでしょ?」

カレンの言葉に、C.C.は手を離し、その場に大の字になって倒れこんだ。空を仰ぐ。伸ばしてみた手はさして伸びず、空に浮いている感覚がした。

「私は……駄目だよ。一緒に背負う事も出来る。だけど、それじゃ駄目なんだ。アイツを、支えてやれる奴が必要なんだ」

C.C.は右手で天を仰いだまま、左手で目の前を隠した。ルルーシュも、カレンも、周囲は変わっていく。でも、自分は変わらない、変われない。だから、支えられない。荷物を持ってあげたとしても、何時かは置いていかれるから。
カレンは大きく息を吸い込んだ。熱い吐息が漏れていく。つい反射的に出てしまった言葉に、自分でも驚いた。以前の自分ならどう思っただろうか?以前の自分は彼女にどんな感情を抱いていたのか?思い出そうとしても、考えても分からなかった。疑問に深けていた思考は、漏れる嗚咽によって上がってきた。C.C.が、泣いていた。振り向くと、彼女は両手で自分の顔を覆い、泣いていた。隙間から見える唇は噛まれていて、泣くのを必死に堪えているみたいだった。
我慢すれば我慢するほど、普段から押さえつけている弱さが、寂しさが顔を覗かせる。せめて、それを外に出さまいと抑えようとしたけれど。勿論無理だった。微塵も抑えきれない。嗚咽が歌のように、漏れ出していく。
カレンはただC.C.の頭を自分の腿の上に乗せ、彼女をずっと見続けていた。
二人に幾筋かの光が降り注ぐ。髪は透くように照らされ、制服は明るく染まる。C.C.の頬を伝い、カレンの腿に落ちていく雫も透明に晃る。嗚咽も、光に包まれ、溶けていく。
顔を覆った、自分で視界を、世界を閉ざしてしまったC.C.には、それが視えない。

――――――――――

「C.C.。一つだけ聞いて良い?」

「……何だ?」

「貴女、自分に自信が無いから、私にゼロ、ルルーシュの事を教えたの?」

「違うよ」

「…じゃあ、何故?」

「…………お前達が、お似合いだと思ったからさ」

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