「ごめん…ナナリー」

「はい」

夜中の道を車椅子を押しながら歩く。雲の無い空に浮かぶ三日月を眺めながら、俺達は笑いあっていた。
ブリタニアなんてどうでもよかった。壊れようが砕けようが、繁栄しようが何しようが構わなかった。少し前までは憎くて憎くて、どうしようもなかったけど、今は本当に、どうでもよかった。母上の為、ナナリーの為にブリタニアを壊そうなんて思っていた。でも、本当はナナリーが傍に居てくれるだけでよかったんだ。
自信を持って言える。ナナリーが一番大切だと。何があっても、それだけは変わらない。
だから、もう何も構わなかった。C.C.の事も、スザクの事も。ブリタニアの事も。そんなことよりも、ナナリーと一緒に居れればいい。その為には何だって捨ててやる。この意地も、誇りも。言い切れる、言い切ってみせる。
平和な世界なんて要らない。ナナリーと二人だけで居られたら、それでいい。

「ナナリー?」

車椅子の揺れが気持ちよかったのか、ナナリーはうとうとと、まどろんでいる様だった。彼女の手をそっと握り、あやす様に頭を撫でる。今、この目の前にあるモノだけが、俺にとっての全てだ。何よりも、自分自身よりも、大切なモノ。

「…お兄様?」

「あ…ごめん。起こしちゃったか?」

「いえ、私は大丈夫です…お兄様こそ」

俺は大丈夫。そう言って再び車椅子を押して歩き始める。真っ直ぐに、道なりに。ただ真っ直ぐに。
あ、あれ…?何だか良く見えないな。視界が霞んで見えない……

――――――――――

俺に何が出来るというのだろう。もう後ろ盾も何も無く。学校も中退した頭でっかちの元高校生と、足と目の不自由な元中学生。この世界、たった二人だけで生きていけるのだろうか?
あのまま行けば、イレブン開放なんて余裕だった。コーネリアの手なんて読みつくして、幾らアクシデントが起ころうとも、いなせる自身も戦力もあった。スザクも例外ではない。そう、全ては俺の手の上だった。何でもやれる自身があった。
でも、脳裏にはユフィの姿しか思い浮かばなかった。彼女は俺の事を、いや、ナナリーの事を真剣に考えてくれていた。偽りだと、それでも遭えてその道を取ったのだ。それに比べて俺はどうだ?上辺だけに執着しすぎて、肝心のナナリーの事は完全に頭から抜け落ちていた。
最後にナナリーを見たときは酷く痩せていた事を覚えている。手なんて、記憶より一回りも細くて、身体、顔からはふくよかさが消えていた。それは、もしかしたら俺の所為だったのかもしれない。

「どうかしましたか?お兄様」

「え?あぁ、いや、何でも無いよ」

自分の愚かさを嘲笑った。多分、ナナリーは全てを知っていて、それでも俺を送り出してくれていたのかもしれない。でも、それは言わなかった。聞けなかった。今更だし、もう…取り戻せない。クロヴィスも、ユフィも。

「ごめんなさい、お兄様」

ナナリーの声に驚いて、顔を除いてみると、泣いていた。

「ごめんな…さい、おに、いさま」

その声は震えていた。俺は何も言えない。言いたい事があるはずなのに、何も思い浮かばない。
だから、笑った。強く両手を握った。俺の表情なんて、ナナリーに見えるはずも無いけど、それでも笑った。この気持ちが伝わればいい、この思いが届けばいい。
俺はナナリーを護って生きていく。一緒に生きていくんだ。
自分の一番大切な人と一緒に生きていく。これほど素晴らしい事が他にあるだろうか――――?

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