それは深い深い闇だった。一面見渡す限り闇。ただの暗闇に過ぎなかった。一点の光もなく、ぬくもりもなく、救いようの無い暗黒、まさに奈落だった。
ルルーシュの死骸を胸に抱き、コーネリアが無様なほどに絶叫したのは、まだあの太陽が天空高くにかかっている頃のことだった。声が枯れ果て、擦れた声しか出なくても、涙と、悲しみの泉だけは枯れはしない。

ルルーシュは死んだ。私が殺したのだ。

ルルーシュの死骸は闇に包まれ、それを抱くコーネリアも闇に包まれていた。世界はこんなにも、暗黒に包まれていたのだろうか。
コーネリアは歩きはじめた。当ても無く、無残に廃墟と化した町を。ただゆったりと、正に散歩だった。腕の中には既に冷え切っルルーシュの死骸があった。何も想わず、何も感じず。何かに躓いて無様に転んだ。体の節々が痛み、軋みをあげる。だが、腕の中にあるモノだけは離さなかった。
やがて足は、崩れ去った学校の跡地に辿り着いた。ゆらゆら泉の水が揺れていた。コーネリアはその泉の横に座ると、より一層強くルルーシュを抱きしめた。翻る髪の間を涼やかな風が流れる。だが、コーネリアにはただの錯覚にしか感じられなかった。
足の膝までを水の中に浸けた。ひんやりとした感触が足から全身に伝わる。次に腰まで、更に肩まで浸かる。思っていたより深いようだった。そこでようやくここがプールなのだと気がついた。底には石や何かの残骸が転がっている。その感触に嫌悪を覚えながら、腕の中のモノから力を抜く。ルルーシュはゆっくりと、水の闇に引きずり込まれるように沈んでいった。
その瞬間、言いようも無い寂寥がコーネリアの体を駆け巡った。何も無い静寂の中、ただ一人存在する自分。どうしようもなく寂しく、何も出来ない位悲しかった。自分が何処にいるかも分からない、そんな浮遊感。気がつくと体も、何もかも全てが黒く染まっていた。風に流されるように、水に流されるように、不安な存在。

絶望に冷え切った体は、悲しみに侵された意識はやがて溶け、螺旋を描きながら其処にある奈落に引きずりこまれていく。遠くに溺愛する妹の声を聞きながらコーネリアは、ゆっくりと意識を閉じた。

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