夜、何時も眠りにつく前に思う。俺は、一体何処にいるのだろう?
アッシュフォード…ずっと、あの日が続けば良かったと、心の何処かが泣いていた。だらだらと授業を過ごし、生徒会で楽しいひと時を過ごし、帰ればナナリーが温かい笑顔で迎えてくれる。
懐かしい情景。けれど、もう戻らない日々。

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空を見上げる。雲は何時の間にか消え去って、空は澄み切り、星が燦然と光り輝いている。広がる空は何処までも暗く、其処に眩しく輝く月だけが、この部屋を包んでいた。
もし、姉上に出会っていなければ、俺はどうなっていただろうか…
今ではもう有り得ないと思う自分の心境に、苦笑がこみ上げた。多分、それは酷く痛々しく、歪んでいる。

「ルルーシュ」

「……姉上」

何時の間にか、部屋の入り口に姉上が立っていた。

「何度も、ノックをしたのだがな」

「え…あぁ。すいません。ぼーっとしてました」

俺の言葉に、僅かに微笑みながら姉上はゆっくりと近づいてくる。月の光が彼女を包み、それはまるで、暗闇の中で薄い明かりを纏うような彫像のようだった。

「何か、あったのか?」

「え?」

その表情は酷く心配そうで。そっと俺の頬に手が触れる。
あぁ…姉上を、心配させるほどに、俺は情けない顔をしているのか。

「いや、何でもないですよ」

笑いかけると、姉上の曇っていた表情は、安心したように笑顔に変わる。それは紛れも無い、本心からの笑顔だった。
心が安らぐ、本当にそんな気にしてくれる笑顔。
俺の手が姉上に握られる。暖かくて、しっかりと感じられて、此処に居る、俺は此処にいると確かな実感が身に沁みていく。
情景はもう戻らない。でも、今此処で生きている。小さな俺の居場所。誰かが護ってあげないと、儚く壊れてしまいそうな、彼女の隣。

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ルルーシュが酷く危うく見えた。不安定な心が何かにしがみ付くようで、何時も切なそうにしているその表情は、痛々しいぐらいに悲しい。それを自分で理解しているのか、必死に私に隠そうとしている。
髪は随分と伸びきっていて、目元、顔全体に暗い影を落としている。その声はくぐもっていて、何かに縋るつくように、救いを求めるような。それが更に禍々しいほどに、鮮烈な印象を植えつけるのだろう。
長い年月は、ルルーシュを此処まで変えてしまった。でも、これからは一緒だ。ゆっくりと流れる時間の中で、彼の心を、溶かしていこう。

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