今夜、マリアンヌを殺す。

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春雷が花を散らした。雨の降る直前の温かい風が、幾つもの花弁をルルーシュとコーネリアに吹き付ける。不意に吹き込んできた風に撫でられ、ルルーシュは目を細めた。
…先刻まで晴れていたというのに。
雨雲は雨を降らせ、始めは弱く、次第に強く、気が付けば地面を叩くほどの勢いになっていた。
ルルーシュとコーネリアは濡れる。雨に打たれ、次第に衣服の色が濃くなってきた。濡れた衣服は、水を通す。透かして肌を直接濡らすような感覚。濡れた衣服は次第に二人の身体を浮かび上がらせていく。
綺麗…
桜の花は、雨に打たれ、風に煽られ、儚く地面に堕ちていく。だが、それを黙って見上げるコーネリアの頬は、ほんのり上気しており、僅かな血の気を漂わせ染まっていた。その様子が、とても儚くて、綺麗だとルルーシュには思えた。

「さっきまで、晴れていたというのに」

「そうですね」

こちらを見て微笑む彼女。重みで前髪が額から顔にかかっている。ルルーシュはそっとその前髪を横に、彼女の耳にかけた。大人しく、ルルーシュに任せるコーネリア。
近くの木で雨宿り。だけど、空には一条の光。雲を切り裂き、大地を薄っすらと照らす。天気雨。

「綺麗、だな」

コーネリアは真上を見上げていた。ルルーシュも見上げると、その桜は、幾千の花を散らせながらも、雨と光を浴び輝いている。

「そうですね」

そっと、コーネリアがルルーシュを抱き寄せた。雨の匂いと、桜の匂いと、彼女の香り。それらがルルーシュの鼻腔で混ざり合う。
それは、ささやかな幸せ。コーネリアの心は近くて遠く、ルルーシュはソレに気が付かない。果たしてどちらにとっての幸せか。
せめて、この雨が止むまで。コーネリアは自分自身に想いをかせて、ルルーシュを抱き寄せ、空を見上げる。せめて、一秒でもこの雨が長く続く事を祈って。

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