常闇の闇、新月の夜に、風の音色が響き渡る。その風に切られた花の香りが風の匂いに乗って鼻腔を刺激する。
閉ざしていた意識を、落としていた目蓋を開けた。視界には夜の闇。やや歪んで見えながらも、眼前にある人影だけは確認できた。二、三度瞬きをし、然程の時間を要さずして目の前の人影を視認する事が出来た。その影の主。ある意味見知った顔。美しく、闇に映える紫電の髪の女性。エリア11の総督。コーネリア・リ・ブリタニア。

「ルルーシュ…」

「どうした、コーネリア…そんな顔をして」

ルルーシュの言葉に、端正な彼女の表情が更に歪む。何かに耐える、だけど耐えれなくなった。そんな表情。

「ルルーシュ」

コーネリアの言葉を、ルルーシュは理解していた。コーネリアの苦悶に歪んだ表情は、全て自分の所為なのだから。
彼女の義理の弟。彼女の溺愛していた妹の敵。
戦いは終わった。コーネリア軍の勝利という形でこの戦争は終結した。だが、この勝利の為に失った代償は計り知れない。コーネリアは自らの騎士と、腹心の部下を失い、ルルーシュは自らの親友と、溢れるほどの愛を傾けた妹を失った。双方共に、その身体には軽、重症を負っており、こうして二人対峙しているのも不思議なぐらいだった。だが、それでも二人は其処に居る。
コーネリアはルルーシュの命を撃てない。

「駄目だ…私には出来ない」

瞼の裏が熱くなっていく。コーネリアは泣き崩れた。泣かずには、慟哭せずにはいられなかった。何が、どう回って、この様な因果に辿り着くのか。身体が重い。手足が鉛に変質したかのような錯覚すらも覚える。息苦しい。嗚咽が肺を潰していく。全身を取り巻く悪寒に体が硬直する。意識が恐怖を訴える。

「コーネリア」

「………ルルーシュ」

「これで良いんです。俺が死んで、全ては終わる。姉上、貴女がその幕を――」

生温い嗚咽感が身体を奔る。コーネリアは泣いていた。涙が、視界を暈していく。目まぐるしく駆け巡る意識が、何も確認できない。
ルルーシュは次第に堕ちていく意識と、閉じていく目蓋の中、震える身体を抱きしめた。自分の全てが黒と闇に塗りつぶされていく。冷たい風が身体を撫でる。その感覚に委ねるように、ルルーシュは眠りについた。

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