ベッドに横になりながら、コーネリアはルルーシュの嬉しそうな笑顔を思い出していた。結んでいた唇が自然に緩んでいくのを感じる。
そろそろ時間だ。コーネリアはベッドから這い出ると、開かれている窓から外を覗いてみる。よかった、晴れている。思わず安堵の溜息が漏れてしまった。そんな自分に苦笑を漏らしつつ、身支度を始める。
空に太陽は無く、昼間よりも気温は下がっているものの、吹く風は生暖かく、近い夏の到来を感じさせていた。


警護の目を掻い潜って外に抜け出しても、胸の動機は収まらない。脈動する鼓動、熱くなっていく身体に生暖かい風が吹いていく。なるべく外灯の光に照らされないように、周囲に注意を払いながら歩いていく。
何時も歩いてきた距離が意外と長く感じる。夜の闇と月の光が何時もと違う風景を作り出すからそう感じるだけだろうか?何時もは鼻で笑い流す事も、何故だか今は楽しく感じてしまう。視界の先に、アリエス宮の門扉が見えてきた。警護の目に触れないように、けれど直ぐわかるように、大きい樹の下に寄り添うように座り込んだ。時計を見ると後十五分。コーネリアは気配を殺して待つ。ゆっくり数を数えながら樹にもたれかかる。


草の踏む音が近づいてくる。コーネリアは息を殺して、音の方向に集中する。暗い夜景に慣れた目が、次第に迫ってくる小さな影を見据える。その小さな影が着ている白い服が、夜目にも眩しく映った。

「ルルーシュ」

小さく手を振りながら、影を呼ぶと。その小さな影は勢いを増して駆け寄ってきた。

「姉上、遅くなりました」

「いや、私も今来た所だよ」

時計を見ると丁度時間だった。ルルーシュは早く行こうとコーネリアの手を握って先を歩いていく。実際はコーネリアがルルーシュの手を握っているのだが、ルルーシュは気がつかない。コーネリアも何も言わなかった。


薄い月の光がそそがれる中、二人は歩いていく。掴む手は細くて、小さな鼓動が掌から伝わってくる。その掌は、暖かい。

「何処まで行くんですか?」

ルルーシュが小さな声で聞いてくる。顔を見なくても今のルルーシュの表情がわかるような気がして、コーネリアは小さく笑った。彼は、捻くれていそうに見えても、根は素直だから。

「ふふ…内緒」

疲れを感じず、二人はずっと歩いていく。湿気を帯びた空気の中、月だけが二人を見つめている。


着いた場所は、ルルーシュも来た事の無い領地の隅の果てだった。少し高い丘の上で、小さな公園みたいな物が造られている。周囲に外灯も無く、暗い中、空に浮かぶ月と星だけが輝いていた。夜露に濡れた草を踏みしめながら、二人は夜空を見上げていた。
夜空に浮かぶ、星の海。其処に流れる、天の川。
ルルーシュは不意に手を伸ばした。その様子を見ながら、コーネリアはルルーシュの頭を撫で続ける。


昼間、ルルーシュは天体図を眺めていた。
夜空に川なんて無いと言い張る可愛げの無い義弟を驚かそうと、此処に連れてきた。
最初は馬鹿馬鹿しいと鼻で笑っていたルルーシュも、夜中に抜け出すと言う話には目を輝かせていた。


牽牛と織姫…一年に一回、この日だけ彼らは会える。だが、天の川がなければ、二人はずっと一緒に居られる。常に一緒に居たいという気持ちは決して一方通行ではないのだから。
私は――

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