体内から逆流してきた血液が口腔を満たした。その熱塊を飲み干す。血が暴れている、踊り狂っている。ソレを何とか宥めて隣に佇む青年を見つめた。
本来なら、機会を待っても良かった。だが、今はソレでは駄目なのだ。薄れ逝く意識を辛うじて留めているのは、自分の想いか、或いは別の何かか。

「―――――行け、柩木スザクよ…ッ!!」

自分でも何を言っているのか解らない。青年は、行った。その後姿を見て、大きく溜息をついた。再び一瞥もしないその芯の強さを思って、羨ましくも、儚くも思えた。
静かな風が木々を揺らし、寝ていた鳥達が慌てて飛び去っていく。

「―――っ――く」

口元が歪む。鉄の味。傷口から流れる血が地面を染めていく。紅い華を咲かせていく。ふと視線の隅に咲いている華に手を伸ばそうとして止めた。既に意味も無く、自分の手が血に汚れていたから。
見上げる空には、満月。その空に、星はいない。
世界が揺れている。遠い彼方から激闘の歌が風に乗って聞こえてくる。絶え間無い振動が地面を伝ってくる。五月蝿いな…と自分にしては諧謔じみたことを思った。
空を見上げた。満月。虚空の月。それは星の無い常闇の空に浮かんでいる。

「――――ルル―」

自嘲気味に漏れた声すらも聞こえない。一体、誰の名か。解らない、思い出せない。確かに大切な事なのに。

「ユフィ」

愛しき妹の名。それを虚空に描く。その言葉は、幻想は秋の風に流され消えていく。大きく深呼吸をし、瞑目する。瞼の動きと同時に、意識が閉じていく。

 

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