荒れ果てた瓦礫の上に、彼が仰向けに横たわっていた。
着けていたと思われる仮面は砕け散っていて、あたりに破片を撒き散らしている。
見渡す限りは闇、新月の夜。何処を見てもただ闇しかなく。
血と死臭が一面に漂っていて、それは勿論不快感しか呼び起こさなかった。
腰が痛くて、肩が痛くて、首が痛くて、腕が痛くて、足が痛くて、頭も痛くて、心が痛かった。
この心を満たすのは、喪失感。それは沼地のように重く、絡みつく。今は身体を、思考を動かすのもとても大変で、億劫で。
もう、何も動かすことを諦めていた。
「何故、何故お前が…ルルーシュ」
「……貴女の勝ちだ、コーネリア」
――――――――――
地を彩る瓦礫の上に、白い騎士が倒れていた。
ソレは無残に砕け散っていて、至る所にその部品と思われる残骸が見える。
パイロット、枢木スザクの生死は不明。死体は発見されなかったが、操縦席跡には大量の血痕が発見されている。
トウキョウでの総力戦は終始黒の騎士団が戦況を優位に展開していた。二重三重にも連なる策謀で、ブリタニア軍を圧倒し続けていた。
だが、ランスロットが出撃してから状況は一瞬にして変化。ランスロットは数分にして旗機、ガウェインに突貫。そのまま自爆。
そうして、両陣営の最終決戦は幕を閉じた。
――――――――――
夜の闇の下に、一人の影が落ちている。
その影は地を真っ赤に染めていて、それは簡潔ながら一枚の絵のようで。
私はそれを他人事のように見つめていた。
ああ、コレはまるで悪夢。
何処か他人事のように思える目の前にある風景。
それは煙のように立ち込めた、濃厚な血と死の匂い。
身体と意識にまとわりつくその空気に、眩暈と共に意識が犯されていく。
身を凍らせるような冷たい風が、一つの終焉を呼び覚ましていた。
彼はそう長くない時間の後に死ぬ。
それはもう確定された未来。
その事実は、鉛の様に圧し掛かる。
――――――――――
「コーネリア、そこにいるのか?」
「あ…あぁ」
「一つだけ、聞いて欲しいことがある。遺言、いや、後悔だな」
「……それは、ゼロとしてか?ルルーシュとしてか?」
「………」
「……話してみろ」
「俺は、本当は…ユフィを殺したくなかった。本当は、ユフィと一緒に…」
「……」
「……それだけは信じて欲しいと、スザクに伝えて欲しい」
「枢木に?」
「ああ、アイツは、絶対に生きている」
「……わかった」
「………」
そうして、彼は糸の切れた人形のように不意に動かなくなった。
私は何も言うことは出来なかった。知らない事は、知らないまま終わった。
私はふと、奇妙な笑いが込み上げてきたのを感じた。思わず額に手をやって、声を抑えて苦笑する。何でこんなにおかしいのか、自分でも良く解らなかった。その辺は、あまり、深く考えないようにする。
箍を外したように、くつくつ笑う。笑いは後から後から込み上げて、止めようもなく喉元から零れた。
でも、身体は、思考は、意識は、心は、泣いていた、ずっと。