クロが泣いていた。ルルが泣かした。ただ、それだけ。
私はルルをクロの前に正座させ、

「謝れ」

そう、一言だけ言った。だけどルルは私を睨み付け、一言も喋らない。

「クロに謝るんだ」

もう一度だけ言う。これで駄目だったらデコピンの一発でも――

「姉上、良いんです」

クロがいきなりそう言った。意味が判らなくて、私は首を傾げてしまった。

「…?何がなんだ?」

「いいんです、もう」

クロも何故だか睨むような感じで私を見ている。

「よくは無いだろう?」

「良いんです」

何時ものクロとは思えないほど強情に、毅然に反抗してきた。何度も同じ言葉が行き交った。ルルーシュは何も言わずに私を見つめているだけで。
わからない、私にはわからない。クロは何にこんな意固地になっているのか。何だか解らないクロに、自分自身に腹が立ってきた。

「何が良いんだ…言ってみろ!!」

思いっきり叫んで、クロの襟袖を掴んで睨みつけた。だけど、クロは全く怯まずに、私の瞳を見つめていた。

「だって、そっちの方が辛いから」

クロは涙を零しながら、私の手を払い歩いていく。私はそれをただ見つめる事しか出来なかった。
辛い?何が?全くわけが解らない。


――――――――――


何時の間に眠ってしまったのだろうか。軍服のままで気が付いたらベッドに倒れこんでいた。眼が覚めると、漆黒の風景が広がっていた。疲れか、悲しみか、思わず眠ってしまった。意図せず眠ってしまったのなんて、久しぶりかもしれない。視界は自分の部屋。そこに僅かな月光が差し込んでいる。複雑な思いが溜息とともに漏れ出した。
何故、あんな夢を見たのだろう…
夢の内容を思い出し、泣きたくなった。もう十年以上も前なのに、夢を見たからか鮮明に思い出せた。去っていったクロヴィスの背中、攻めるように私を見つめるルルーシュの冷たい瞳。
私は、馬鹿だ…
ただ、年上って言うだけで優位に立っていて。その癖何も見ようとはしていなかった。今では、何故クロヴィスがあんなに頑なだったのか、ルルーシュの冷たい視線に理由もわかった。ルルーシュに泣かされる事よりも、私に助けられる事の方が辛かったのだろう。私を、好きだったから。だが…全ては今更だ。
昔はあんなに光に溢れていた。眩しくも輝かしくも、楽しい日々だった。だが、今はルルーシュも、ナナリーも、クロヴィスも死んでしまった。まるでこの夜のように、静かに、暗くなってしまった。私自身も、この手を血に染め、暗い道を歩いている。その中で、月光に照らされている写真の義兄弟達だけが笑っていた。

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