雪が降っていた。空は重い灰色の雲に覆われ、沈んだような静けさが世界を支配している。その中でひらひらと降り注ぐ雪は光の粒のように淡く闇を彩っていた。

「ルルーシュ」

大樹の下で読書に没頭していたルルーシュは、その声の主の方に視線を動かす。その視線の先には先ほどの声の主、薄い桃色の髪をした少女、ユーフェミアと、深い紫の髪の少女、コーネリアが、仲よさそうに草むらの上に並んで座っていた。

「折角の雪なのに…本ばかり読んで…」

「……寒いだけだ」

「そんな!ルルーシュは何もわかってない!」

「……」

何をわかっていないと言うのだろうか…思わず考えてしまったが、結局その答えは出なかった。隣ではコーネリアが呆れたように、首を横に振っていた。

「……で、何?」

「え?」

「何か、話しがあったんじゃないの」

「あ、そうです」

ずっと座り続けて疲れたのか、ユーフェミアはよたよたとふらつきながらも、何とかルルーシュの隣に座った。その少し後に、コーネリアもルルーシュの隣に座る。彼女の足取りはしっかりとしていた。

「あの、ですね。ついにお姉様の騎士が決まったんですよ!?」

「…って、ユフィ。私の話か」

「……ふーん」

また呆れるように溜息をつくコーネリアとさほど興味がなさそうに本を置くルルーシュ。

「…何ですか。その反応は」

「…別に、興味無いよ。俺は」

ルルーシュがつまらなそうに溜息をつくと、ユーフェミアの表情は一気に崩れた。

「…もう、ルルーシュったら、何でそんな意地悪なことしか言えないの?」

何か言い返そうと、ルルーシュがユーフェミアの方に体を向けると、彼女は泣きそう、半泣きの表情でルルーシュを見つめていた。

「……ごめん、気をつけるよ」

そんな顔をされたら、ただ謝るしか出来ないじゃないか。そう答えると、ユーフェミアの顔は一気に嬉しそうな表情に一転する。思わず、重い溜息をついてしまった。隣ではコーネリアが笑いをかみ殺している。

「……で、ユフィは何が言いたいんだ?」

笑いをかみ殺したまま、コーネリアはユフィにたずねる。ユフィはさらに瞳を輝かせ立ち上がり、左手は胸に当て、右手でルルーシュの手を握る。

「汝、ここに騎士の制約を立て、ブリタニアの騎士として戦うことを願うか?汝、我欲にして大いなる正義のために剣となり盾となることを望むか?」

一瞬だけの静寂。雲からは太陽の光が僅かに漏れ、世界に溶けながらも、舞い輝く純白の雪が降り注ぐ。その銀色の世界で、彼女が呟く、誓約の言葉。

「……は?」

それをルルーシュは判っていなかった。だが、呆けているルルーシュを気にせずに、ユーフェミアは話を続ける。

「私は、絶対にルルーシュを騎士にするの。それでね、私と結婚して、ずっと守ってもらうの!」

事情が飲み込めない。目の前には真剣で、それでも楽しそうなユーフェミア。耳に聞こえるのはもはや噛み殺せなくなったコーネリアの笑い。

「………」

「どうしたの、ルルーシュ?私の事、守ってくれない?」

不安そうな瞳で覗き込んでくる。何を考えているのか、何も考えていないのか。

「……考えておく」

無邪気で、無垢で、何も知らない彼女。でも、俺はそんな彼女が好きだった。


――――――――――


「じゃあ、私の事も守ってもらおうかな」

「姉上には騎士様がいるじゃない」

「でも、守る事は出来るだろう?」

「……嫌だよ」

「ん?どうしてだ?」

「だって、俺はユフィの騎士になるから」

「…素直じゃない奴だな、お前は」

「……五月蝿い

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