アッシュフォード学園に桜吹雪が舞う。それは、祝福する天使の羽のように。桜は舞う。風の中で踊るその花弁は儚くもありながら、人目を惹きつける美しさも兼ね備えている。桜という雪は決して溶けず、落ちて尚、柔らかな香りでアッシュフォードを飾っていた。それは、雪でありながら桜という雪花。
学園の敷地を取り囲む山間地の雪花は、一斉一様に薄桃色の花びらを満開にし、今日という祝日に彩を飾っていた。学園の校門の横に、第××期生卒業式と書かれた看板が立てかけられていた。
その敷地内のクラブハウス。その裏手側の人気の無い場所に、一つの人影。桜の花よりも映え、人目を惹く紫電の髪に、高貴な雰囲気を持ち合わせた少女は、アッシュフォードの制服に身を包んでいた。
その少女は、コーネリア・リ・ブリタニア。
彼女は必死に気配を殺して、クラブハウス裏手を覗き込んでいる。

「ル、ルルーシュ、え…今朝の、話、憶えていますか?」

聞こえるのは妹の声。愛しのユーフェミア。

「ああ。憶えているよ。第二ボタンだろ…?」

気恥ずかしいのか、向かい側に立つ少年の顔は紅く、ぶっきらぼうに言いながら、ユーフェミアの手に自分の第二ボタンを握らせた。

「けど、ユフィがそんな事言い出すなんて…何時も顔を合わせているだろう?」

「で、でも…欲しかったの。私、ルルーシュへの気持ちは、想いは本当だから」

「あ、あぁ…ありがとう」

互いに何度も顔を見合わせ、視線を交わし、何度も逸らし、一緒に桜を見たり。その雰囲気には、コーネリアの元にまで初々しさが伝わってくる。風が桜を躍らせる音に、二人の声が乗り、それは幸福のハーモニーを作り出している。

「………」

コーネリアは、無言で背を向けた。何故だか、見ていられなかった。思いもよらないほど、心臓の鼓動が跳ね上がっている。ユーフェミアのルルーシュに対する感情は知っていた。ルルーシュのユーフェミアに対する感情も気が付いていた。本人はその事事態に気が付いているかまでは判らないが。
何処まで二人は進んでいるのか。手を繋いだ?キスをした?その先まで―――?考えれば考えるほど、身体中に鼓動が駆け巡る。嬉しさが溢れる反面、悲しみを無理やり押し込めようとする想い。
まるで胸に穴の開いたような感覚に気が付かない振りをしながら、その場を後にする。何だか痛い。額が、胸が。どうにかなってしまった自分に溜息が出る。その溜息を風が乗せ吹き抜けていく。桜を舞わせながら。彼女の想いを隠すように。

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