何時からだろう、10も離れた姉に恋心を覚えたのは。何時も傍に居てくれた存在に恋を感じたときに、俺は壊れてしまった。
コレは夢だと、幻だと、何度もそう思った。可笑しい、間違っていると、解かっていた。
でも俺の心は止まらなくて、彼女の全てを奪ってしまえと荒れ狂う。嫌だ、間違っている。そう思ってるのに、そうなる事を願っていて。そんな自分に絶望していた。


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「ん……んっ…!」

唇と唇の間から、くぐもった悲鳴が漏れる。突然の刺激に、涙が溢れ、零れ出す。指がシーツを強く掴み、嫌な音を立ててベッドが揺れる。

「ん…ふ、ぅ……ぁ…ん」

生温い舌が、口内と意識をゆっくりと溶かしていく。雄物が闇雲無く侵入して来て、身体と心を溶かしていく。零れた蜜が、シーツを濡らしていく。

「ぁ…は…っ…あ……ダ…ダメぇ…っ!!」

下半身から突き上がってくる肉欲の刺激は、私の意識を遠くに飛ばし、肉体を絶頂まで引き上げる。
だが私の中を穿つ雄物は構う事無く、遠慮なく更に強く、深く突き入れていく。

「あ…ぁっ…ダメぇっ…嫌…嫌…ぁっ!」

私は限界を超える責めに、刺激に、ただただ悲鳴じみた声をあげてるだけだった。
何時までも、気だるい匂いと、生々しい水音、艶かしい喘ぎ声が部屋を満たしていた。


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シュナイゼルは笑みを浮かべるわけでもなく、快楽に酔いしれるわけでもなく、ただコーネリアを犯していた。
何時からそうしているかは忘れてしまった。淡々とした作業。そこには勿論愛と言った感情は無く、欲望の捌け口ですらない。何の感情も無いこの行為は、果たして何と言うのか。シュナイゼル自身も忘れてしまった。いや、思い出さないだけかもしれない。
どちらにせよ、コーネリアはただ悲観にくれるしかなかった。


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小さな頃から一緒だった。力の無い彼をずっと守ってきた。愛していた、弟として。愛していた、家族として。
だが、何時からかその感情は違ったものにすりかわっていた。だけど、この想いは叶わない。だからずっと胸に秘めていた。
だけど、あの時から狂ってしまった。変わってしまった。兄に犯されてから。


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「ルルーシュ!」

貴女の声がした。大好きな姉さんの声が俺を呼んでいる。

「姉さん」

俺が振り向いて、笑うと貴女は満面の笑みを、嬉しそうに浮かべる。その表情がたまらなく愛しくて、思わず抱きしめてしまった。

「姉さん…」

「ルルーシュ?」

ちょっと困った顔に、少し潤んだ瞳、少し染まった頬。綺麗な唇が、そっと動く。

 


「……っ!?」

勢い良くベッドから跳ね起き、辺りを見回す。だけど、何処にも姉さんのいなくて。ただの夢だと思い知らされた。
だが、この身体には生々しく、彼女を抱きしめた感覚が残っている。

「くそ…どうかしてる」

腹違いとはいえ、姉に恋をするなんて。モノにしたいと、願うなんて。
部屋のガラスを見てみる。予想通り、頬は赤く熱を帯びていた。体が火照っていた。
あんな夢を見ていたからか…首を左右に振って、意識を消し去ろうとする。おかしい、おかしすぎると、否定しようとする。
俺はそんな人間じゃない……そう思う意識に反して、動く右手は止められなかった。


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もう日課になってしまった背徳の行為に、自己嫌悪が更に募った。終わっても拭えない感触が嫌で嫌で、気持ち悪かった。

「ルルーシュ…」

大好きな弟の名前を呼んで、ようやく癒される自我。もう堕ちている事は解かっていた。それでも、手を差し伸べて欲しかった。
唯一の救いは、ルルーシュがシュナイゼルとの関係を知らないことだけだった。知られてしまえば、絶対に今までの関係ではいられない。そうなったら私は耐えれない。きっと壊れてしまう。
救われない道だった。選択肢も何も無かった。ただ壊れるのを待つだけだった。
だから、泣いた。泣き続けた。ドアが開かれている事に気がつかずに。

「姉さん?」

ルルーシュの声を聞いて、反射的に振り返ってしまう。

「姉さん…泣いてるの?」

「そんなことはない」

幸い、部屋の中は薄暗かったため、ルルーシュに見られたわけではなかったようだ。私は背を向け、平静を装って答えた。

「…姉さん?」

ルルーシュの暖かい手が、私の頬に触れる。優しく引き寄せられる。その瞳に、全て見透かされているような気がした。

「…離せ!」

振り払おうとしたけど、ルルーシュの手は動かなかった。ルルーシュが一歩迫る。私は一歩引く。

「来るな…っ!」

「姉さん、何かあったの?」

言えない、言えるわけが無い。

「姉さん…」

一瞬、何が起きたか分からなかった。気がついたときには、そっとルルーシュに抱きしめられていた。

「ル、ルルーシュ…?」

「姉さん、そんな悲しい顔を見せないで…」

「………」

「好きな、人には、笑っていて欲しい」

突然の言葉に、頭が白くなった。混乱して、それでも、嬉しくて、切なくて、悲しくて、複雑な気持ちが胸を満たしていく。

「……ダメ、だ」

「…姉さん?」

「ルルーシュの気持ちは嬉しいよ……私も好きだ。だけど、私はもう…」

涙が溢れ、嗚咽が漏れる。言葉が出ない。ルルーシュはそんな私を更に強く抱きしめる。

「私は…もう、汚れてるんだ…ごめ、ん…ごめんな…っさ…い」

「…どういう意味?」

何も言えなかった。兄に犯されたなんて。

「ごめ……んっ…さい」

私はただ泣いていた。泣き続けていた。


――――――――――


幾ら愛を重ねても、幾ら想いを伝えても、君の心は手に入らない。
凄く好きで、凄く愛して、無理やり君を暴いても、手に入るはずは無く、傷ついていく。君も私も。
だが、君の心が手に入らないなら、君の愛するものを手に入れれば良い。そう、ルルーシュを私の手にしてしまえば…
自分の陳腐な思考に嫌気がさす。狂ってる。はは…妹を犯すような兄だ。既に狂っているか。
愛してるのに、如何して手が届かないんだろう。最上閣下なんて偉そうな肩書きを持っていても、欲しいものすら手に入らない。そう思うと泣けてきた。
ああ…泣く価値なんて無いか。愛しい妹を傷つけ、汚したのだから。何度も嫌がる彼女を犯した。流す涙を舐めて、苦悶の声すら心地よくて。そうして悦ぶ自分がいる。

「…兄さん」

控えめなノックの音と共に、聞き覚えのある声が聞こえた。

「ルルーシュ、どうしたんだい?」

ルルーシュの瞳には、憎しみ、悲しみ、あらゆる感情が混ざっていた。それは一つの事実を予感させる。
そう、それなら都合が良い…
心躍る気持ちを抑え、招き入れる。ルルーシュははっきりと嫌悪を露にした。きっと、自分は今、醜く歪んだ笑いを浮かべてるのだろう。

ああ…迷ってる、悔いてる暇なんて、時間なんてもう無い。
コーネリア、もし君の心が手に入るなら、世界だって滅ぼせる。この国だって捨てれる。
君が私の隣に居てくれれば、心が私に向いてくれれば、私には何もいらない。

今、私の顔ははっきりと哂っていた。

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