雲一つ無い空に草原に広がる木々、さわやかな風と輝く太陽。視界に広がるのは見たことも無い風景だったが、不安は無かった。
風が吹いた。木々が揺れる。その風に答えるかのように流れる髪を押さえて、彼女が笑った。涼しい風が、汗ばんだ体に心地良い。
俺にとって、この景色は遠い夢の出来事で、それは何よりも嬉しいこと。視界に広がる景色、その景色だけが俺の世界の全てじゃないかと錯覚するときがある。こうして、毎日同じ風景に接し続けると、ふと、取りとめもないことを思うことがあった。
ああ、空が青い……


――――――――――


「ルルーシュ…?」

目を覚ますと、ユーフェミアの顔がまず最初に視界に飛び込んできた。その綺麗な髪が、意思を持つようにふわりと揺れた。

「…夢を見ていた」

俺の言葉を聞いて、ユーフェミアは少し眉をゆがめた。不安と困惑が入り混じったような、複雑な表情。

「良い夢だった」

「……そうは見えませんけど」

ユーフェミアは少しの間を置いて、否定した。正面から俺を見据えて、言葉の撤回を待つ。俺の目にユーフェミアの表情がよく見える。さっきと変わらない、複雑な表情。折角出会った彼女の顔が自分のせいで歪められていると思うと、なんともやりきれないものがある。

「本当にいい夢だったんだ」

だけど本当にいい夢を見たから、引き下がるのも面白くない。

「夢の中でずっと、何かを考えていた。そのうちに、体も、心も、俺のすべてが少しずつ浮かんでいくような、そんな気分になっていくんだ。このまま何処に行くんだろうって――」

ユーフェミアは、ただ黙って俺の話を聞いている。水のように透き通った白い肌、空の色よりもきれいな蒼い双眸、何よりも鮮やかに広がる桃色の髪。それを見ているうちに、自分が溶けていく感じがした。あの夢と同じだ。
雲一つ無い空の果てへ、どこまでも飛んでいけそうな――

「ルルーシュ」 

ユーフェミアが俺を抱き寄せた。互いの体温を感じ、心臓の鼓動が、鼓膜を無視して、直接脳に響く錯覚。

「…ユーフェミア?」

初めて触れた、あまりにも細すぎる彼女の肩。俺は肩ではなく、首に腕を回す。ユーフェミアがピクリと反応し、腕に込めていた力を少し緩めた。胸と胸、鼻と鼻、瞳と瞳。息づかいも聞こえそうな、近い距離。

「もう、もどれないのですか……?」

ユーフェミアは泣いていた。悲鳴も嗚咽も無い、ただただ溢れる涙。その涙を、俺は指で拭った。

「…………」

しばらく沈黙のときが続いたが、やがて自然に離れた。俺は黙ったまま、ユーフェミアの手を引く。

「……行こう」

爽やかな風、雲一つ無い晴天。太陽の光を浴び、木々は煌くように揺れていた。

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