桜。春の訪れを告げる花。薄紅の花弁を咲かせながら、可憐に散っていく薄幸の華。儚い命だからこそ美しい。風に抱かれて消えていく桃色の吹雪は、まるで夢のような幻想を感じさせる美しさ。
その下で、桜すらも翳る美しい桃色の髪が踊っていた。
「ルルーシュ?」
髪飾りのように付着した花びらを弄びながら、微笑を浮かべるその姿。嬉しそうに口元を緩め、楽しそうに花吹雪の中で踊る。それはまるで妖精のようで、純粋に綺麗な女の子。桜さえ褪せて見えてしまうその美しさに、ルルーシュは言葉を失い、ただ見惚るだけだった。
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「お花見に行きましょう!」
ニュースを見ていたユーフェミアは突然そんな事を言い出した。
「…どうしたんだ?急に」
「えーと、次の休みなんてどうかしら?」
言葉は既に通じなかった。
「……ルルーシュ?」
何時の間にか、考え込んでしまったらしい。ユーフェミアが心配そうな顔で覗き込んでいた。誤魔化す様に笑うと、嬉しそうなユーフェミアを横目で見た。
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桜の下に、色とりどりのお弁当が広がっている。全て彼女のお手製だ。
「はい、ルルーシュ♪」
ユーフェミアが一杯の水を差し出した。
「ありが…ぶっ!!」
飲んだ瞬間吐き出した。コレ…梅酒じゃないか。ユーフェミアの方を振り向くと、彼女はニッコリと笑って迫ってきた。
「お花の下では…無礼講、でしょ?」
満面の笑みで迫ってくる。手には半分の残った梅酒。まさしく、悪鬼の顔をした天使。反論なんて、出来るわけも無かった。
「…まさか」
目線を下げると、何時の間にか転がっている梅酒。頭が少し痛くなってきた。
「どうしたの?ルルシュ。私のお酒、飲めない?」
顔色や仕草に変調もないが、ちょっと言葉遣いが怪しい。彼女は笑顔。だが、笑っていないのがわかった。
「いや…」
しぶしぶ受け取る。
「はい、乾杯っ!」
「……乾杯」
桜に映えるとびっきりの笑顔。ああ、もう。そんな顔されたら、飲むしかないじゃないか。一気飲み。
「……っ」
「知ってる?杯を乾かすから……?」
視界が眩む。景色が揺れる。ユーフェミアの声を何処か遠くに聞きながら、意識が何処かへ旅立ってしまった。
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「だいじょ…」
心配する前に、ルルーシュはぐらりと倒れこみ、ユーフェミアに寄りかかる。
「え…あ、ルルー、シュ?」
「………ぁ」
呼びかけたが、呻き声だけが返ってきた。
「…あ」
「……大丈夫?楽になった?」
このままじゃ、どうしようもないのでルルーシュの頭を膝に乗せた。癖のある髪が少しくすぐったい。
「ユフィ」
「な……っ?」
不意に、首を引っ張られた。そのまま唇を塞がれる。唐突な感触に混乱してしまう。
ゆ、夢…?いや、でも、これは……っ!!
唇の中に舌を差し込まれて、優しく据われ、舐められる。自分の顔が赤くなっていくのを、まるで他人事のように感じた。
「る…ちょっと、ルルーシュ!?」
何とか体を離して、ルルーシュの方を見るけど、目は虚ろで、きっと抗議の声も届いてない。
「……好きだ、ユフィ」
ゴロンと寝返りをうって、そんな事を言い出した。急な告白に、頭が更に混乱する。怒るにも怒れない、照れるにも照れられない。色々な感情が頭から心に駆け巡る。
「………」
「…ルルーシュ?」
そのまま、ルルーシュは寝息を立て始めてしまった。混乱していた頭も、真っ赤に染まった顔色も、徐々に醒めていくのを感じた。
「……もう」
再び寝返りをうったルルーシュの表情は、本当に年相応の少年の様でとても穏やかだ。
「……あ」
一片の桜の花が、ルルーシュの顔にひらりと舞い落ちる。上を見上げてみると、一面に桜の花。その隙間から見える青い空。僅かに聞こえてくるルルーシュの寝息。そして、確かに高鳴っている、私の鼓動。
「……おやすみ」
「……ん」
また、ひらひらと散って舞い降りる桜の花びら。私はそれを身に受けながら、ルルーシュの髪をそっと、優しく撫でた。この愛しい気持ちと共に。
天使の様に舞い降りる桜の花に抱かれながら、彼の寝顔を見ながら、春の盛りを満喫する。それは、きっと、私が、彼が待ち望んでいた幸せな時間。