姉上は、実にうっとりと、馬鹿みたいに表情を崩して言っていた。

「ユフィは柔らかくて、ふわふわして抱き心地が良いんだぞ。あ、ルルーシュ。お前になんか抱かせないからな」

言われなくても頼まない、このシスコンの妹馬鹿。大体ナナリーの方がふわふわしてて可愛いに決まってる。と、心の中で悪態を付いた。だけど、あの強面を此処まで堕落させる、ユフィの抱き心地に少し興味がわいた。

――――――――――

アリエス宮の温室には、沢山の花が咲いている。その花たちは互いを引き立て、彩るように風に揺られていた。何時来ても、何時まで眺めていても飽きない景色。ユーフェミアはこの温室が大好きだった。その大好きな花々に囲まれながら待っていると、程なくしてルルーシュが現れた。ルルーシュはユーフェミアの隣で歩みを止めると、同じように温室の花々を眺めた。

「もう、夏が終わるんだね」

そう言ってルルーシュは目を細めた。その様子をユーフェミアはただ黙って観察している。
ゆらゆらと、温室の花たちは揺れていた。気持ちが良さそうに、ただ流れるように。

「…きゃ、っ」

急にルルーシュがユーフェミアの腕を自分の方に引き寄せ、抱きしめる。バランスを崩した彼女を、しっかりと抱きしめた。

「ルルーシュ?」

ユーフェミアは少し身体を堅くしたまま、ルルーシュに抱かれていた。目の前で赤い花がふわふわと揺れている。

「ユフィ、ふわふわしてて気持ち良い」

そう、ルルーシュは笑っていた。その様子にユーフェミアは肩の力を抜いて、背後のルルーシュに身体を預けたまま、一緒にぼんやりと温室の中を眺め続けた。
目の前で、花達が揺れている。

―――――――――

ユフィの抱き心地は確かに良かった。姉上の気持ちも良く分かる。髪がふわふわしてて、身体が柔らかくて、それこそナナリーに負けないぐらいに。
まるで、二人して猫になった気分で、日のあたる温室でぬくぬくとぽかぽかしてるだけ。それなのに楽しくて、気持ちよくて。日向でまどろみながら、ただ一緒に。

―――――――――

「……ユフィ?」

コーネリアは錆び付いた温室のドアを開ける。妹のユーフェミアは大層此処がお気に入りで、今日も此処に来てると話を聞いていた。

「……あ」

温室の奥まで進むと、二つの人影が互いに寄り添うように眠っている。その表情には幸せそうな微笑が浮かんでいて、見ている自分もその輪に入りたくなるような錯覚も覚えてしまう。
その二人を母親のような穏やかな表情で、コーネリアは見つめ続けていた。

inserted by FC2 system