ルルーシュは立ち尽くしている。その手に抱えているのはユーフェミア。だが、彼女はもう存在してなくて。彼女は、もう何処にも居ない。
風になびかれる。差し込む月光。この空間はあまりにも冷たい。命あるものの姿は無く、忘我の世界。揺れる木々、その音はまるで鎮魂歌のようで。彼女の魂を乗せて、悲哀と哀憐を乗せて永遠に響き渡る。静かに、静かに、何処までも。
ルルーシュの服に、真紅の華が咲いていた。見惚れるまでの、艶悦な真紅。その大輪の中心に、ユーフェミアは眠っている。その死に顔に映るのは、安らぎか、悲しみか。だが、それは確かにルルーシュに向けられていた。彼女は眠っている。だが、二度と目覚めない。彼女の眠りが終わる事は、無い。
その胸に秘めた想いは、何なのか。誰も知らない。
何故こんな事になったのか、その理由は何なのか。ルルーシュは知っている。

気が付くとユーフェミアを抱きしめていた。何時からかは定かではない。肌の至る所に赤い染みがついている。服の至る所に紅い染みがついている。痛い、少しだけ。それは心と身体。どちらの痛みなのか。身体が鉛のように重い。吐き気がするほど気分が悪い。弾けそうなほどの頭痛が襲ってくる。それは、病ではない、決して。
彼女と話していたのは、つい数時間前のことだった。けれど、彼女はもう口を開く事は無い。その事実に、彼女を抱き上げたまま、呆然と立ち尽くしている。
終わったのだ、呆気ないほどに。
通り過ぎる過去の記憶。果ての無い草原の中、二人で駆け抜けた。太陽に照らされて、暖かい日の下、二人で眠った。心地良い風に抱かれて、二人で踊った。
壊れてしまった幸せの扉。壊したのはルルーシュ自信。もし、もし本当にあの日に戻れたのなら、あの頃に戻れるのなら、きっと自分の全てを捨ててまで適えようとした。だが、それは決して無い。そんなものは所詮は泡沫の夢想。現実はかくして現実であり非情。それは、自分が良く知っている。理解している。
だから……だから、その悲しみが、苦念が、恋慕が胸を覆い尽くす前に、ルルーシュは自分で扉を開けた。絶望と言う名の。

ルルーシュは静かに独り泣いている。涙は溢れ、留まる事を知らない。その心に、後悔も何も無い。だが、悲しんでいる。意味の無い涙。だが、果たして意味は必要なのだろうか?
ユーフェミアはルルーシュの腕の中で、瞳を閉じている。眠るように、静かに、安らかに、ひっそりと。確かに。

死んでいた―――

inserted by FC2 system