さよならと、ルルーシュが言い放ったのと、ユーフェミアの身体に穴が開いたのと、胸に真っ赤な華が咲いたのはほぼ同時だった。身体が、心が痛いと感じる前にユーフェミアの意識は堕ちて行く。
何か、言いようも無い心の奥底で何かが崩れていった。それは何かわからなかったけれど、多分、とても大切なモノ。天地が翻る様な衝撃に、手が、肩が、足が、身体が震えた。仮面の中に水が溜まり、視界がぼやけて何も見えない。何故泣いたのか。思いもよらないイレギュラーの果てにユフィを殺した事か。それとも、ユフィを殺した事で、自分の目的がまた一つ果たされたからか。

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鈍い夕光にそまる日暮れ。美しいまでの晴天が、血の風に染まった午後。それらを拭うをように怏々と夕日が輝いている。様々な赤や黄を混ぜあい、塗りつくし、色合いを変化させながら地平の彼方に沈んでいく。雲を茜色に染め、世界を紅に塗り替えていく。その光景、色彩。
だが、その光さえも遮る暗い部屋の中でルルーシュは泣いていた。唯一つの傷痕。それだけがルルーシュの胸に影を落とす。だが、夕日はそれでも堕ちて行く。今日と言う取り返しの付かない日と共に。鈍い日差し、だが鋭い赤は世界を照らしていく。煌々と輝く夕日が部屋に降り注ぐ、薄暗い部屋が徐々に明るくなっていく。
まだ、終わってない。いや、此処から始まるのかもしれない。進むべき道はまだ前に、少しだけ見えている。なら、歩まなくては、進まなくてはならない。

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心の中にある、小さな小さな、けれどはっきりと強く輝く灯火。それは俺の中にある確かなぬくもりで、俺はそれを愛と呼んでいた。

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C.C.の声を聞いて、あふれ出しそうになる涙を辛うじて堪えた。彼女の香りと、暖かい抱擁。思わず溺れそうになる心を辛うじて押さえ込む。だが、彼女に俺の悲しみは背負えない。俺の矛盾を正せない。
気が付けば既に部屋は暗く、彼女の姿しか見えなくなっていた。立ち上がり、彼女の手を引いて、外を眺め見る。薄い夜の闇が広がる空に、星が幾つも輝いている。その中で欠けた月が神々しく輝いていた。

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心の中にある、かつて愛と呼んでいたモノは、消え去っていた。もう心の中に温もりも暖かさも無く、背筋が凍りそうな冷たさが支配している。
クロヴィスを殺し、そしてユーフェミアを殺し、果ての無い路を進んできた。進めば進むほどゴールは遠のき、心は悲鳴を上げ擦り切れていく。その先に何があるのか、ルルーシュ自身にもわからない。

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少しだけ成長したナナリーが草原を走っている。それを少し離れた後ろで眺めている自分。世界に広がる緑の平原。見上げれば永遠に広がっていく蒼穹。それは思い描いていた奇跡の具現。白い雲が漂い、小鳥達が鳴き、他愛ない、けれど充実した日々。その中でナナリーと二人、手を繋いで歩いていく。繋いだ手は離さないで、二人歩いていく。ゆっくりと、一歩ずつ。太陽の下、空の下、大地の上、草原の上。そんな風景。
だが、それは唯の夢。
夢を見ることすら馬鹿らしい夢。だが、それを夢想する。自分の夢ではなくて、彼女、ナナリーの夢。既に自分の輝きは消え、汚れきってしまった。この祈りが、願いが更に自分を汚し、追い詰める咎だと解っていても、その祈りの果てを願ってしまう。それは間違いだろうか?

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日の暮れた常闇の中、膝を抱えた青年は人知れず透明な雨を降らせる。煌く星の中に降り注ぐ雨は、凍りつくように冷たく、寂しくて、止まらない。

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