時折冷たい風が吹く。秋の中に冬を見かけるようになった日没後、陽光に負けないように輝く星達が、淡い光で部屋の中を照らしていた。冷たく吹き抜ける風、今日は特に冷えそうだ。そんな事を漠然と思っていると、ドアを控えめに叩く音が耳を通り抜けた。
「どうぞ」
そっけなく呟くとゆっくりとドアが開く。また一段と冷えた風が部屋を通り抜けた。
「調子はどうだ?」
彼女の言葉に返事をせずに、右手を気だるそうに挙げた。そのままベッドに寝転がったまま窓の外を見つめる。星は変わらず輝いている。視界の隅に丸い月が見えた。
「……」
彼女はその腕を少し目を細めて見つめると、ゆっくりと部屋に入ってくる。右手は骨折していた。
「…智哉、ご飯は食べたのか?」
「食べてない」
「じゃあ、今から一緒に食べないか?」
予期してなかった言葉に振り向くと、彼女がはにかんだような笑顔で立っていた。それはまるで――
「…どうしたんだ」
「作ったんだ、私が」
「…何で?」
「……智哉がまだご飯食べて無いだろうと思って」
見えるのは白い御飯と野菜炒め、それに味噌汁。
「……さんきゅ」
差し出された箸を無視して、味噌汁を口につけた。少し、少しだけ冷めていた。
「―ん、美味しい」
急かすような視線を受け止められず、視線を泳がせたまま呟いた。彼女の右手に、幾つかの絆創膏が見えたような気がした。暫く無言で食べ続ける。気が付けば彼女が隣に座り込んで一緒に食べている。首を傾げたり、頷いていたり、落ち着かない様子で箸を進めている。
「……美鶴」
「何だ?」
「いや、何でもない」
窓もドアも締め切られ、音の無い空間。机の上に先程まで手を付けられていた箸や皿が転がっている。美鶴は何が可笑しいのか少し笑っていた。その手は絆創膏で切り絵が作られていた。満腹になっている俺はベッドに寝転がったまま美鶴の横顔を見つめている。
「……眠い」
目を、瞼を閉じる。その上から覆い被さってきた何かが唇に触れた気がして目を開けると、目の前に赤面した美鶴の顔がある。何かを言おうと思ったが、心地良く意識を閉じていく。そっと、頭を撫でられる感触に身を任せながら。