結局、昨晩の恨みを叩き込む事など出来るはずも無く、俺はただ美鶴の後を歩いていく。とぼとぼと足どりは重いようで軽く、内心、美鶴と出かける事に心が浮かれているのかもしれない。

「馬鹿馬鹿しい……」

呟きは風に溶けた。

――――――――――

辿り着いたのは神社。人気も何も無く、ただ静寂が其処にある。空は高く、冬の寒気を存分に溜め込んだ青空が、潔く広がっている。

「ほら」

手には暖かいミルクティー。隣には美鶴。空には蒼い太陽。近くで見つめるとやはり、その違和感が際立つ。何かが違うんだろうけど、それが決定的に分からない。

「…で、何の用だ?」

「用なんて、ないさ。君とただ散歩をしたかった」

どうにも警戒心の解けない俺の声をさらりと流すように、美鶴の赤い唇が開き、澄んだ声音が俺の心に染みていく。

「…そうかよ」

「……ふふ、そう怒るな。一つだけ、君に聞きたい事があって」

「別に、怒ってなんて無い」

美鶴から目を逸らして、虚空の空に視線を投げた。何だか、余裕のある美鶴が、何故か、余裕が全く無い自分に苛々し、何とも言えない混沌とした感情が胸の中に渦巻いている。

「なぁ、君は、自分の譲れないモノの為に、仲間と戦う事は、出来るか?」

言葉を選ぶように、けれど早口で美鶴はそんな事を言い出した。

「……当然」

一言だけ、そう答えた。風が冷たい。だけど、掌は温かい。隣の美鶴が、俺の掌に、自分の掌を重ねているから。

――――――――――

目を覚ますと、美鶴の気配は消えていた。既に黄昏は過ぎ、太陽が沈む瞬間。夕日の名残を残した感情が、胸の中にこびり付いている。何となく、さっきのは夢だったのだと理解した。
今日のデートの相手には、もう二度と会うことは無いだろう。俺は残っていたミルクティーを飲み干し、空き缶を投げ捨てると、何も見ずに、神社を後にした。

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