「……私は、どうしたらいいのでしょう?」

「さあ?どうすれば良いのだろうね?」

コーネリアにさした影を、シュナイゼルはただ見つめ続けた。

――――――――――

ユフィは特区の準備に追われてて、お互いに擦れ違いの時間が続いた。
別に待ち合わせの時間を作れば良いのだが、何故だか出来なかった。今まで一度も喧嘩をしたことが無かったからか、如何すれば良いかわからなかった。それでも時は過ぎていく。

最近はユフィを遠めに見つめているだけだ。慌ただしく朝早く出て行き、夜遅く重い足取りで帰って来る妹を。見る度に、見る度に表情に疲れが溜まっているように見えて、とても心配だったが、そばに付き添う騎士。彼ならきっとユフィを支えてくれるだろう。そう思い込んで、ただ瞑目する。
一言、たった一言声をかけるだけなのに、それが出来ない。
それがとっても情けなくて、悲しくて。

――――――――――

スザクは花に水をかけているユフィを見つめていた。勢い良く撒かれる水は、絶え間なく花壇に降り注ぐ。豪雨のように。

「ユフィ、そんなに水をかけたら、花が痛んじゃうよ」

それには答えず、ユフィはただ水を撒き続ける。その指は赤く、力が篭っていると傍目からでもわかるほどに。

「……このまま、水を撒き続けたら、花は枯れてしまうのでしょうね。そうなったら、どうなるのでしょう?」

「…?さあ、僕には……」

呟く様に問いかけるユフィに、スザクは上手く言葉を紡げなかった。

「枯れた花には、意味はあるのでしょうか?」

「……花、と言う意味はあると思う。枯れても花だから」

「では、スザクは枯れても花と呼べる、と考えてるのですか?」

ユフィはホースを頭上に向けた。勢い良く登る水が、小雨のように辺りに降り注ぐ。ユフィの視線はスザクを捕らえて離さない。

「…ちょっと違うかもしれないけど、枯れても花だと思う。例え色や形が違ったとしてもね」

「……」

「枯れた花に水をあげても、それは元には戻らない。でも、枯れた、そういう変化を見せても花は花なんだと思う」

「……」

「ユフィ、前みたいとまでは行かないかもしれないけど、それが変化だから」

スザクの言葉に、ユフィは安心したような、納得したような、でも複雑な表情をスザクに向けていた。

――――――――――

「ここだよ、コーネリア」

「…兄上」

待ち合わせの場所まで来ると、既にシュナイゼルが来ていた。他に誰もいないのだが、それでもわざわざ呼んでくれるシュナイゼルに、コーネリアは笑顔で返す。

「流石、時間通りだね」

「……はぁ」

「時間前に私が来ていたのは、紅茶の準備をする為だよ」

本当に、少し前に来たんだよ。と言いながらシュナイゼルはコーネリアのカップに紅茶を注ぐ。花を思わせるような香りが、コーネリアの鼻腔を刺激した。

「…良い香りだろう?」

「ええ、とっても」

コーネリアは嬉しそうに答えた。室内はアンティーク調の装飾でまとめられているが、全てが渋い色で統一されていて嫌悪感がまったくない。まさにシュナイゼルのイメージ通りだとコーネリアは思った。

「…どうしたんですか?急に」

「……まさか、コーネリア。自分が呼ばれたわけがわからないなんて言わないだろうね?」

毅然な姿勢で、コーネリアを見つめるシュナイゼル。その視線にコーネリアは耐えれなくて、俯いてしまう。

「……私は、どうしたらいいのでしょう?」

「さあ?どうすれば良いのだろうね?」

コーネリアにさした影を、シュナイゼルはただ見つめ続けた。

「私は、どうしたら良いか……わからないんです。でも、他人に、どうにか出来る問題でも無い。それも、理解してます」

「うん」

言葉に詰まりながらも、自分の考えを纏めながら話すコーネリア。シュナイゼルは促すわけでもなく、ただ聞くだけ。

「コーネリア」

「…はい」

「コーネリア。お前は私の自慢の妹だ。もっと自信を持ちなさい。何時もの様に」

シュナイゼルはカップに口をつけて、一息ついてから続けた。

「ユフィもわかっている筈だよ」

コーネリアはカップに口をつけた。紅茶は既に冷めていた。

「きっと大丈夫」

シュナイゼルの言葉は何の解決にもなっていない。でも、それで十分だった。

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