「…?どういうこと?」

「そのままです、髪を伸ばそうと思って…」

コーネリアは自分の髪を弄りながらそう答えた。激務の最中、何とか取れた自由な時間を妹とのお茶の時間をと誘ってみた。
その僅かな時間に、まるで波の立たない水面のように静かだったところへ波紋を起こしたのがコーネリアの一言だった。

「髪、伸ばそうと思うんです」

最初、シュナイゼルはコーネリアの発言にどう反応すべきか迷った。コーネリア自身は独り言のつもりだったのだろう。ともすれば風に流されてしまうほどささやかな呟きだった。

「…兄上はどう思いますか?」

そう言いながら、コーネリアはようやくシュナイゼルの方に向いた。そのまま、癖の付いている自身の髪を手櫛で溶かす仕草をしてみせる。シュナイゼルは手にしていたカップを静かにおくと、僅かに微笑んだ。

「勿論、似合うと思うよ」

「本当です、か?」

「ああ」

シュナイゼルはコーネリアの姿から髪の長い姿を想像してみる。お世辞でなく、本当に似合いそうだと思った。自らナイトメアを駆り、武人のイメージが先走りするコーネリアだが、女性らしい華の部分の面もあるのをシュナイゼルは知っている。
おそらくはユフィを護るという保護者的な気持ちから、コーネリア自身もさらに強くなくてはならないと自意識を強く持っていたのは間違いない。
……しかし、どういった心境の変化なのか。シュナイゼルは疑問を素直に口にしてみた。

「しかし、どうしたんだい?急に」

「え…あ、いえ。考えていたら、今までずっと短かったので。もう少し伸ばしてみても良いかな、と」

「……それは、具体的な答えになってないよ」

シュナイゼルの言葉に、コーネリアは苦笑して頬をかいた。言うのが恥ずかしいのか、または言葉が無いだけか。
近くに待機している侍女に紅茶の替えを淹れさせる。真新しい香りが、鼻腔を刺激した。

「…ユフィに、騎士が就きました」

「そうだね」

直轄の特派の事だから、良く覚えているし、知っている。何度か言葉を交わしたこともあるが、実直で素直な少年だったと記憶している。

「それに、特区の事も…」

「うん」

「姉妹だから、当たり前なのかもしれませんが、私達はずっとそばにいました。気が付けば、隣に居るのが当たり前で。だから、ずっと気が付かなかったのですね。ユフィはあんなに成長していたと。姉としては、少し寂しいかもしれませんが、でも、考えてみれば、これからは姉妹であるけれども、一人の女性として、対等な関係で一緒にいられる。接することが出来ると思うと…素敵じゃないですか?」

「そう、かもしれないね」

コーネリアは満面の笑みを浮かべている。様は、倦怠期の姉妹に新しい風が入ってきたと。シュナイゼルはそう解釈した。
そこで、シュナイゼルは数年前の自分を思い出した。コーネリアが騎士を選抜したときも、同じようなことを思っていたことを。

(…ま、私は其処まで依存はしていなかったが)

当然だが、コーネリアには聞こえない。その心境を知らず、コーネリアは小一時間、ユフィの事を喋り、惚け続けた。

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