「あ、この間はすいませんでした…兄上。折角、二人で出かける貴重な時間を……」
「気にする事はないよ。コーネリア。また、予定が会えば出かけよう」
申し訳無さそうに項垂れるコーネリアの頭を、シュナイゼルは微笑みながらそっと撫でた。その優しさは、さらにコーネリアの心に罪悪感を植えつける。
「いえ、それでは私の気が済みません。兄上、私に出来ることなら…」
その、厭らしい事でなければ。と頬を染めながら呟いたコーネリアに見向きもせずに、シュナイゼルは一際大きいクローゼットを漁り始める。
「え、あ…兄上?」
呆然とするコーネリアを尻目に、何かを探すシュナイゼル。そして、シュナイゼルは晴れやかな笑み、でとある物をコーネリアに差し出した。
「コーネリア、コレを着てくれないか」
「…は、はぁ」
それは女給の制服だった。いや、どちらかといえば、小間使いの制服か。レースのエプロンが付属した黒地がベースの洋服。
「コレを、着ればいいんですか?」
「うん、そうだよ」
「…?それだけで良いんですか?」
満面の笑みでシュナイゼルは頷く。その表情に直感的に如何わしい雰囲気を読み取ったコーネリアだが、ただ着替えれば良いだけなら、と複雑な思いで決心を固めた。
――――――――――
「コレで、良いのですか?兄上」
「うん、よく似合っているよ」
いざ着てみたは良いものの、丈が思った以上に短く、胸元も、想像していた以上に開いていて、若干締め付けられるような感触がある。
気持ち、恥ずかしくて胸元とスカートを隠そうとするが、当然そんなことも出来るわけも無く。
逆にその仕草がシュナイゼルの興奮を煽り、掻き立て、昂ぶらせる。シュナイゼルの眼は血走っていた。空腹で死にそうな猛禽が、獲物をようやく定めた時の様に。
コーネリアは気が付かない。
「しかし、この様な服。兄上はどうしたのですか?」
「ルルーシュが彼女の為に仕立てたらしいんだけど、もう使わなくなったと言って処分しようとした所を引き取ったんだ」
ルルが…?あの女に?
コーネリアの心に思い浮かぶのは溺愛する弟と、その恋人であるピザ臭い女。
これを着せる?こんな物を?何の為に?
コーネリアは頭を回転させて考えてみたが、結局ルルーシュの意図は掴めなかった。
「コーネリア、一つだけお願いがあるのだけれども」
「はぁ…何でしょうか。兄上」
気持ち悪いぐらいに満面の哂みを浮かべるシュナイゼルに、コーネリアは若干の悪寒と悪感を覚え、一歩後ろに下がる。
「私の事を、ご主人様と呼んでくれ」
にこやかに、悪魔でにこやかに微哂んだままシュナイゼルは口を開く。
その言葉で、コーネリアは初めて彼らの意図に気が付いた。そして、自分の浅はかさ、鈍さを恨んだ。そして、自分の兄弟の堕落さに呆れ、怒りが沸き立つ。
この服は自分には少し小さい。胸も、腰も。何だか、少しだけ虚しかった。理解はしているのだが、割り切れる物ではない。
目の前に愚兄を殴りたいと思いつつ、頭はそんなことを考えていた。いや、既に殴っていた。
――――――――――
「い、や…ご…ごしゅ、人様…ぁ」
嫌だ嫌だと拒絶しながらも、コーネリアは律儀に言いつけを守る。そのいじらしさにシュナイゼルの顔は歪み、コーネリアの首元に舌を這わせ、その甘い声に耳を傾ける。
コーネリアの心は羞恥とくすぐったい痺れと刺激が混ざり合って、既に自分で自分すらも見失いかけていた。目の前には大きな鏡が飾ってあり、溺れかけた自分が快楽に身を震わせていた。
「ぁ…ん、っ…は…ぁ」
玩ぶ様なシュナイゼルの愛撫に、コーネリアはただ為すがままに身体を預ける。露になっている乳房の先端を強く弄られ、甘い声が高くなっていく。
「あ、あっ…ぁん」
指が奥に入っていく感覚、熱を帯びるシュナイゼルの吐息と自分の喘ぎは、更にコーネリア自身を高みに押し上げ、加速させていく。
立つ水音と、溢れる愛液。それらが二人の感覚を刺激し、二人の衣服を汚していく。
何時もと違う衣装だからか、コーネリアの身体は何時もより過敏に反応し、感情をより昂ぶらせ、掻き立てる。その猥景はシュナイゼルの優越感と、支配欲は何時も以上に満たされていく。
――――――――――
「ぃ…やぁ…ぁっ」
背後から組み伏せ、貫いたままシュナイゼルは哂っていた。弱々しい抵抗を刺激するように、その背中に舌を這わせていく。
「ほら、コーネリア」
自分を落ち着かせるように、彼女を焦らすようにシュナイゼルは優しく囁く。
動かない男根から刺激を吸い出そうと、必死に膣は収縮し、絡みつく。その刺激にシュナイゼルの顔は更に歪み、コーネリアの意識は堕ちて行く。
「…ん、ぁ…お願、い…っ、です」
「………」
「ぅ…ごい、て……っ!」
「違う、だろう?」
背中を自身の身体で押さえつけ、囁きかける。コーネリアの息遣いに合わせて、豊かな乳房を包み、その頂点を掌で躍らせる。
「は…動いて…っ!くだ、ぃ…」
ご主人様と。そう呟いたのをシュナイゼルは確かに聞いた。待ち望んでいた、その一際高い声、甘ったるく溶ろけた声は、シュナイゼルの背筋に戦慄を奔らせていく。
コーネリアは自分を恥じた。泣き出したいぐらいに情けなく思った。それでも自分の口からは、歓喜と快楽の混ざる声が漏れていく。被虐の魔悦に耽れ、身体が蕩けていく。
少しも休めてもらえない。鏡に映る自分が、懇願する自分の声によがり、快楽に溺れる。羞恥に染め尽くされた意識が、更に自身の興奮を昂ぶらせていく。
――――――――――
「な、何だコレは…っ!!」
ルルーシュとユーフェミアはその残景に言葉を失った。
壁の至る所に穴が開き、ベッドは真っ二つに割れ、シャンデリアなどの装飾品は無残に天井にめり込んでいたり、窓から捨てられていたり。本の数冊は半分に裂かれ、残りのほとんどはズタズタに引き裂かれている。
「だ、誰が一体……」
部屋の中央で、一つの人形が横たわっている。顔は原形を留めてなく、腫れ上がっていて、それでも笑ってはいただろうと予測だけは出来た。だって、あの変態なのだから。自分の兄だから。
その傍らに覚えのある洋服だった物があった。それで、ルルーシュは悟った。
(兄上…貴方って人は)
誇らしい。心の中でルルーシュは敬礼した。だが、貴方は馬鹿だ。死んではいなかったが、心の中で黙祷した。自分が譲ったという事実を話していない事を祈りながら。
ふと気が付くと、ユーフェミアは部屋の隅で何かを探している。
「ユフィ。どうしたんだい?」
「いえ、ルルーシュ」
そう言ってユフィは一つのビデオカメラを取り出した。
「これは?」
「以前、シュナイゼル兄様が言ってたの。もし万が一、自分のみに何かあったとき。コレが全て見ていると」
そう言って部屋を出て行こうとするユーフェミアを、ルルーシュは止められなかった。彼はどうしようもなくアドリブに弱かった。
「………」
人形は何かを呟いている。それは、自分の為か、彼女の為か、二人の為か、その全てか。誰も分からない。誰にも聴こえない。
「コレは一大事です…お姉様は今日は公務だと言っていましたが…クロヴィス兄様は確かお暇な筈。ルルーシュ、ナナリーは?」
「あ、え、うん。今日は、屋敷に、居ると思うよ」
「なら、アリエス宮でこのビデオを再生しましょう!きっと、マリアンヌ様も力になってくれるはずです!!」
「………うん。きっ、と。ははうえなら、ちからになって、くれるとおもう」
肩まで棺桶に浸かったモノ言わぬ屍と、これからの惨劇に人生を諦める少年と、楽しみに顔が歪む少女が其処に居た。