今、貴方が傍に居てくれている。それだけで、私は幸せになれるのです。

時計を見ると、既に約束の時間を30分も過ぎていた。予定よりも大幅に会議が長引いてしまった。シュナイゼルは大きく溜息をつきながら、堅く冷たい地面を踏みしめていく。足元で小石が細かな氷の様な音を立てていた。
約束の場所には、当たり前だが、既にコーネリアが待っていた。部屋の中で座りながら、手元の本に視線を落としている。窓越しから見るコーネリア、シュナイゼルには何だか別の世界の住人に思えた。ゆっくりと近づいていくが、声をかける前に彼の方から視線を上げた。一瞬だけ、どんな表情をすれば良いのかわからなくなってしまい、シュナイゼルは困惑してしまう。曖昧な笑いを造る前にコーネリアの方から微笑んだ。それは店内の暖かい光に照らされているからか、まるで天使の様な愛らしさを感じさせる微笑だった。

「兄上、お疲れ様です」

「…ありがとう」

内心シュナイゼルは舌打ちをした。少し不安げなコーネリアの表情が待つ時間を物語っていたから。

「……今日は、来ないのかもしれない。と思っていました」

不安のこもる言葉とは裏腹に優しい声。だが、その言葉は小さくシュナイゼルの胸を刺す。
次々と運ばれる料理、弾む会話。その途中、窓の外に何かが見えたような気がした。

「…どうかしたんですか?」

シュナイゼルに釣られて外を見たコーネリアが不審な顔をする。一瞬だけ、花が見えたような気がした。けれど今は明るい室内しか見えず、外の景色はまるで見えない。
ワインのボトルは既に空になり、目の前には食べるのが惜しいほどの装飾が凝られたデザート。コーネリアの顔が化粧の上からでも頬が赤く上気しているのがわかる。そして、自分も同じように赤く染まっているのがわかる。
シャーベットが口内で淡雪のように溶けるのを楽しみながら、シュナイゼルはコートから一つの小さな箱を取り出した。

「コゥ、プレゼントだよ」

「ありがとうございます…開けて良いですか?」

シュナイゼルは黙って頷いた。コーネリアはおそるおそるその箱を開ける。

「これは……」

中には指輪。コーネリアの驚いた表情を横目に、シュナイゼルはその指輪をコーネリアの指に嵌めた。

「誕生日おめでとう。コゥ」

コーネリアの表情が一気に崩れ、嬉しそうな顔。それだけで、シュナイゼルの心は満ち足りて、確かな幸福を感じた。

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