「雨、雪に変わったみたい」

耳元で囁かれた彼の声で、遠い世界から引き戻された。先ほどまで鳴っていた雨の音は何時の間にか消え、身を包むような寒さに私は身をすくめた。

「そういえば、夜中には雪になるって言ってた」

彼の腕に力が入る。私は彼の暖かさを感じながら視線をめぐらせた。目に付いた時計の針は、あと10分ほどで日付が変わる位置にあった。後10分で今年が終わる。

「ん……」

不意に左腕が軽くなって。僅かに開いた隙間から体温よりも低い空気が、静かに流れ込む。

「どうしたの?」

いくら暖房が効いているとはいえ、素肌を晒せるような季節ではない。私は彼と向き合い、彼を強く抱いた。彼の胸に埋もれるように顔を埋める。

「いや、何でもない」

彼は苦笑いしながら、それでも私を強く抱き返してくれた。毛布に包まれて交わすキス。彼の体温は冬であることを忘れてしまうほど温かい。それを感じながら不意に、泣きくなった。今はこんなにも満たされている。その反面、この時が近いうちに終わってしまう。そんな思いが胸に翳る。

「遥、寒い?」
「…少しだけ」

彼の言葉に一言だけ返した。多分、寒いのではなく、不安なのだろう。

「遥」

彼と目が合った。彼は真剣なまなざしで、私を見つめている。その瞬間、世界が変わった。また、運命のカウントダウンが一つ進んだ。

「綾時」

私は彼を見つめたまま、ひたすら強く抱いた。彼は僅かに目を見開いて、直に私の額にキスをする。また私を見つ表情は穏やかなで、その視線は、私を捉えたまま。髪を撫でながら、微笑む彼。私は今そんなに情けない顔をしてるのだろうか。

「……」
「……」

今までの事が気の遠くなるような昔の事に思える。楽しかった、楽しすぎた日々。でも、今はもう遠い過去。短かったけど、何よりも充実してた一ヶ月。私達はキスを交わした。何度も、何度も。その後に私は彼の胸にキスをする。そして強く、強く彼の胸に顔を埋める。彼の鼓動を感じるように、今だけは全てを忘れて、深く、深く眠るように――

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