「お姉様、これ、着てもいいですか?」

躊躇いがちに伺いを含む声に、コーネリアは読書に向けていた意識をユーフェミアに移した。ユーフェミアは立てかけられた鏡の前で、何やら制服を持ちながら思案した様子を見せている。

「着ていい…って、ユフィ、それは私の制服だぞ?」

「そうですけど、着たいんですっ」

無邪気にはしゃぎながら、鏡の前で制服を合わせるユーフェミア。満足げに鏡の前で微笑んでいるが、サイズは全く合ってない。

「…突然、どうしたんだ?」

「だって、お姉様の制服姿、とても格好良いんですもの」

今すぐ着たい!と、目が燃えている。少なくともコーネリアにはそう感じた。自然に表情に笑みが浮かんでしまう。

「そうか…じゃあ、着てみるか?」

「…はいっ、着てみます!」

コーネリアはユーフェミアの服を脱がして、制服を着る手伝いをする。最初はあたふたしていたユーフェミアだが、次第にコーネリアにその身を委ねていった。

「……当然だが、サイズが違いすぎるな」

「ぶかぶかしてる……」

コーネリアの制服にすっぽりと納まってしまったユーフェミア。どちらかと言えば着せられている感が強い。袖からは指だけ、スカートからも指しか見えない。歩こうとしてもふらついてしまい、おぼつくだけだった。

「わ…っ」

「ほら、危ない」

「だ、大丈夫です」

鏡の前で何とかポーズを取ろうとするが、如何考えても滑稽にしか見えない。それでも可愛らしくて、抱きしめたくなる衝動を必死に抑えながら、コーネリアはユーフェミアの肩に手を置いた。

「で、どうだ?初めて制服を着た感想は」

「そうですね…ちょっとサイズが大きいですけど、とっても良い感じだと思います。清楚で可愛らしいと思いますし、落ち着いた感じが好きなんです」

少し気取った風に話しながら、ユーフェミアは満足そうに笑っていた。それを見ているだけで、胸に心地良い感覚が満ちていく。

「あ、何で笑ってるんですか?」

「え?いや、ユフィがもっと大きくなったら、きっとこの制服も今よりも似合うようになるよ。そう考えると、今から楽しみだな、と」

何時もの声だが、何処かに色合いを異とした落ち着きの含んだ呟きのような声に、ユーフェミアは小首を傾げた。
私は…一週間程しか通わなかったな。せめて、ユフィには楽しい、幸せを感じられるような学園生活を送らせてあげたい。
小首を傾げながらも笑顔を崩さないユーフェミアの頭を撫でながら、コーネリアは強く想った。自分に言い聞かせるように。ユーフェミアに優しさを送るように。

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